27話
同時刻、白の国の王城。白の女王の寝室。
アリス同様、自国へと連れ戻されたハンプティは、戻ってからずっと女王の寝室で拘束され、監禁状態となっていた。
部屋に漂うブラックバカラの香り。甘すぎるその香りに鼻を抑えたいのに、手足を拘束されて身動きの取れないハンプティは、現在白の女王によってベットへと押し倒されていた。
「ふふっ、どうハンプティ。女の子に押し倒されている気分は」
「……そうですね、悪くはないです」
「まぁ嬉しい。私も、すごく気分がいいわ」
ハンプティの腹の上に乗っている女王は、服をほぼ脱ぎ捨て、真っ白な髪と同じ、白く透明な肌を晒しており、普通の男なら目のやり場に困るほどだった。
しかしハンプティは、じっと自分を見下ろす女王を見つめ続けた。
「そんなに見つめられたら照れてしまうわ。それとも、早く先をやりたくてし方がないのかしら」
ゆっくりとハンプティの胸に手を置くと、彼の着ているシャツのボタンを上から順番に外していき、彼の服を乱していく。
「国のトップがこんな売春まがいなことをしてるなんて、信じられません」
「女王って言っても、私はお飾りだって知ってるでしょ?今この国を腐らせて、ダメにしてるのは大臣たち。私には関係ないわ」
全てのボタンを外し、露わになった彼の体に自身の指をはわせながら、女王はにっこりと笑みを浮かべる。
部屋の出入り口では専属メイドのディーとダムが並んでこちらを見つめているが、そんな視線など気にせずに、女王は好き勝手にハンプティの体に触れていく。
「私は、貴方以外はどうでもいいの。国が滅んでも、誰かが死んでも……貴方さえいてくれれば、それでいいのよ」
「……傲慢ですね」
「あははっ! 赤の女王には負けるわ。まぁそうね……彼女に優ってるのは“嫉妬”くらいかしら。ねぇ、ハンプティ……」
白の女王はお腹のあたりで手を止めると、表情が一変する。
その反対側の背中には、ハッターが撃ち放った弾丸の傷が残っている。
ボロボロの状態で連れ戻されてきたハンプティ。それをみた女王は酷く困惑し、そして怒りを露わにしていた。
普段は周りのことなどどうでもいいと思っているのに、ハンプティのことになると、彼女は簡単に人を殺すことができる人間だ。
「赤の国の方には感謝してるの。今こうやって貴方に触れられているのは彼らのおかげ。でも……」
ぎりっと奥歯を噛み締めながら、彼女は徐々に指に力を込め、ハンプティのお腹を押していく。
「うぐっ……」
「ハンプティを傷つけたことは絶対に許さない。必ず、貴方を傷つけた兵士には相当の報いを受けてもらうわ。簡単には死なせない。じっくり、じっくりと、一思いに殺して欲しいと思うほどに!」
「ぁぐっ……うぅ……」
ゆっくりと指から力が抜けていき、彼女は優しくハンプティのお腹を撫でると、そのまま首に腕を回し、彼に抱きついた。
「ふふっ。まぁ今目の前に元気な貴方がいるならそれでいいわ。あぁ……毎日貴方に触れることができるなんて最高に素敵だわハンプティ」
一瞬にして機嫌が良くなった女王は、強く強く彼を抱きしめる。
抵抗できず、されるがままのハンプティ。表情も無感情で、彼女に特別感情が動いたりはしなかった。
(何もかも、アリスとは違う)
不愉快に感じる声。吐きそうになる香り。嫌悪感を感じる肌の接触。彼にとって目の前にいる女王は、ただただ自分を縛り上げる悪魔にしか見えなかった。
声を聞きたいとも思わない。触れたいとも思わない。愛おしいとも思わない。そんなものに今こうして抱きしめられているのは、非常に気持ちが悪かった。
どんどんっ!




