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未来視軍師と紅の剣姫  作者: 暁紅桜
《三章(繋がれた鎖)》
29/56

26話

白の国を攻め落とす戦争が行われる前日、アリスは城を抜け出し、城外にある森へと足を運んだ。

 森の中を進んでいくと、道中で草木や鳥たち、動物たちがあいさつをする。中には驚いている者もいた。

 人為的に作られた道を進み、終着点に着くとアリスは足を止めた。


「アリスっ!」


 そこは、【帽子屋マッド・のお茶会パーティー】の会場。長テーブルに白いテーブルクロスが敷かれ、その上には綺麗な赤いバラと、たくさんのお菓子と紅茶が並べられている。鼻をくすぐる甘い香り。そして、テーブルを囲んでいる友人たち。


「アリス、アリス……心配したんだよ……もう、会えないかと思った……」

「マウス……」


 小柄なネズミ耳に尻尾の生えた少女、マウスは誰よりも早く駆け出し、勢い良くアリスを抱きしめて頬ずりをする。目からボロボロと涙を流し、何度も何度も鼻をすする。

 心配をかけて申し訳ないという気持ちもあったが、そんな彼女の様子を見て、少しだけ羨ましいとも思った。


「明日、最後の戦争になるかもだから、その前にこようと思って。ごめんね、今まで来れなくて」

「いいんだよ。またこうやって、アリスがここに来てくれて」

「ふふっ、アリスくるとマウスがニコニコしてくれて嬉しいな」

「それな。もっといちゃつけ……ハグでもいい、できればキス!」


 マウスに手を引かれ、テーブルの近くに行くが、アリスは彼の姿を見て足を止めた。


「やぁアリス、いらっしゃい」


 いつも通り、優しい笑みを浮かべるハッター。だけど、アリスの顔は歪む。

 どうして、そんな風にいつも通りでいられるのか。罪悪感も何もない、謝罪の言葉もない。アリスには、彼の心が全く見えない。それに、少しだけ恐怖を感じる。


「どうしていつも通りなんですか」

「謝ってほしいんですか?だったら謝りますよ」

「そういうことを言ってるんじゃないんです……」


 彼の後ろを通り過ぎ、アリスはマウスの隣の席に腰掛け、もぐもぐとお菓子を胃袋に詰め込んでいく。


「喧嘩でもしたのか?」

「別に、そういうわけじゃない……」

「連れ戻す際に少しばかり」

「ハッター、まさかアリスに怪我させたんじゃっ!」


 マウスが勢い良くテーブルを叩き、前のめりでハッターに尋ねる。それに対し、アリスは無言。ハッターは苦笑を浮かべる。


「まぁまぁマウス。聞いたところで過去のことだし。せっかくアリスが来たんだし、いつも通りまったり過ごそうよ」

「ムッ、チェシャ猫がまともなこと言ってる……」

「珍しいな、お前がマウスをからかわないなんて」

「えぇー、マーチ酷いなぁ」


 ニマニマとするマーチに対し、どこか怒ったように笑顔を浮かべるチェシャ猫。マウスは隣で黙々とお菓子を食べている。

 半年ぶりに参加するお茶会は、何一つ変っていなかった。


「……美味しい」

「えへへっ。アリス、それ好きだよね」

「うん」

「じゃあパイも食べる?」

「……うん、ありがとう」

「あー……いい、いいわぁ」


 女の子同士、はたから見れば姉妹のような二人は、仲良くお茶をする。その光景を、真正面から幸せそうに見つめるマーチ。この様子も、何一つ変わっていない。

 半年前と同じ、戦場のことを忘れられる幸せなひと時。


「あははっ、マウス口の周りにお菓子いっぱいついてるよ。子供だなぁー」

「ムッ、子供じゃないもん。チェシャあっちいって!」


 またチェシャ猫がからかい、マウスが怒る。その光景もいつも通りだ。


「マーチ」

「ん?」

「チェシャは、まだ……」

「半年じゃ変わらないって。それに、マウスがそれどころじゃなかったし。わかってるだろ」

「……そうだね」

「アリス、お茶のおかわりどうぞ」


 騒がしさは、ハンプティたちと暮らしていた時よりも賑やかで、少しだけ楽しい気もする。

 だけど今ここで感じる幸福は、あの時とは違う。


「アリス?」


 違う、この声じゃない。そう思うと、頭の中にハンプティの声が響く。彼に触れられたところが、ひどく暑く感じてしまう。


「どうしたの?体調悪いの?」

「……なんでもないよ」


 心配そうに見上げてくるマウスにぎこちない笑みを浮かべて、アリスは紅茶を一口飲む。口に広がる甘さが、ひどく感情を高ぶらせる。

 彼の声が聞きたい、彼に触れられたい。遠くにいるハンプティを、もう二度と会うことはない彼を、不思議と求めてしまう。

 ドキドキと心臓が痛いくらい疼く。今までに感じたことのない感情。これに名前はあるのだろうかと、アリスは考えた。

 頭の中で、今まで読んだ本の知識の中からその感情と合致する言葉を探した。

 酷く脳が糖分を求め、手の届く範囲のお菓子を夢中で食べ進めていく。


「ア、アリス?」

「すごい食ってる……」


 どれだどれだと探り探りではめていく。


(あっ……)


 不意に手が止まる。その言葉と感情が、ピッタリとハマったからだ。その感情は、書庫にあった誰かが書いた恋愛小説の一文にあった言葉。




--------- “愛”


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