表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
未来視軍師と紅の剣姫  作者: 暁紅桜
《三章(繋がれた鎖)》
25/56

22話

今から十数年前、アリスは国外れの貧民街に住んでいた。

 元々は城下町に家族四人で生活していたが、母が早くに亡くなり、それをきっかけに彼女は貧民街に捨てられてしまった。 


「さすがだな。それにひきかえお前はなんだ。どうしてこんなこともできないんだ!」


 父は優秀な姉を溺愛し、無能なアリスを嫌い、毎日のように罵声を浴びせた。


「グズのくせに!どうしてあんたみたいな子が彼に好かれるの!」


 姉は自分よりも可愛く美しいアリスを嫌い、罵声とともに、彼女に暴力をふるった。


「やだ……お父さん、お姉ちゃんっ!置いていかないで!」


 二人に毛嫌いされたアリスは、彼らに貧民街へと捨てられてしまった。当然彼女は二人に縋った。だけど自分を見下ろすその目は、アリスを拒絶していた。


「「お前/あんたなんか、生まれてこなければよかった」」


 その後、父と姉は城下町で二人幸せに暮らし、アリスは明日も迎えられるかも分からない、絶望的な生活を送った。

 一日一回支給されるパンを食べ、美味しくもない井戸水を飲み、日の当たらない場所で布をかぶって眠る。そんな毎日の繰り返し。だけど、いつしか貧民街に支給されるパンが3日に一回となり、その次は一週間に一回と日に日に遅くなっていく。

 一日一食しか食べられないだけでも苦痛なのに、3日も、一週間も食べられないとなると、幼いアリスには堪え難いことだった。

 フラフラとした足取りで、アリスは食べるものを探した。当然、そんなものがあるはずもない。アリスだけではない、ほかの住人も、空腹で苦しんでいる。


「ご飯……ご飯が食べたい……」


 おなかいっぱい食べたい。美味し水が飲みたい。暖かな場所で眠りたい。そんな欲求を感じ、そして求めながら、彼女は一人フラフラと街の中を彷徨っていた。


「あぁー!!遅刻だ遅刻!!このままじゃ遅れちゃうよぉ〜!!」


 不意に聞こえた声に、アリスは振り返った。


「うさぎ、さん?」


 視線の先、左から右へと白いうさ耳をつけた男の子が横切って行った。その不思議な姿に、夢を見ているのだろうかと思い、アリスはその少年のあとを追いかけた。

 彼についていけば、きっと何かがあるかもしれない。今のこの生活から、出られるかもしれない。そう思いながら、先を行く少年を捕まえようと手を伸ばしながら追いかけた。


「ん?……ンピャッ!」


 背後の気配に気づき、走りながら振り返った少年は、自分に手を伸ばすアリスの姿を見た瞬間に、悲鳴にしてはなんとも愛らしい声をあげながら、全速力で逃げ出す。

 アリスも負けじと、少ない体力を全て使い果たす勢いで少年を追いかける。

 あと少し、あと少しと徐々に少年との距離は縮まっていき、伸ばす手がゆっくりと彼の背中に伸びていく。


「んヒャアア!!」


 ぐっと勢いよく少年の背中の服を掴むと、アリスはそのまま彼を抱き寄せた。

 その場で膝をつき、息絶え絶えにスリスリと彼に頬ずりをする。


「いやぁあああああ!!だ、誰か、誰か助けてぇえええええ!!」


 ジタバタと暴れ、情けない声を上げる少年。しかし、アリスは逃すまいと強く強く少年を抱きしめる。


「そこを動くなっ!」


 気が付けは、そこは見知らぬ場所だった。鮮やかな赤色の花が咲き誇るとても美しい場所。そして、自分を取り囲み、剣先を向けるたくさんの大人たち。

 アリスの体からはゆっくりと力が抜けてゆき、その隙をついて少年は彼女から逃げ出し、一人の兵士の後ろに隠れる。


「騒がしいのぉ……何事じゃ」


 透き通るような声。兵士たちが道を作り、彼女をアリスの前へと案内する。目の前に現れた女性が姿をみて、アリスは動きを止めた。圧巻するような豪華な赤いドレスを身に纏った女性は、口元を隠すように扇を広げ、じっとアリスを見下ろした。


「貧民街の子供か?」

「えぇ。スノー様を捕まえておりましたので、賊かと」

「ほぉ、こんな子供が賊……」

「ぁ……あ、ぁの……」


 口からこぼれるのは戸惑いの声。そして、なぜか女性と目があった瞬間に体中に感じた感覚。彼女には逆らってはいけないという本能が、幼いながらにアリスは感じ取り、わずかに体を震わせていた。


「ご、ごめんなさい……わ、私……そ、その子をお、追いかけて……わっ、ざと入ったわけじゃ……ご、ごめんなさい……ごめんなさい」


 泣きながら、アリスは女王の目を見たまま謝罪をする。彼女はただ黙って、じっと足元で許しをこうアリスを見つめていた。


「黙れ!子供だろうと、そんな嘘が通じると思うのか」

「黙るのは主らじゃ。犬のようにきゃんきゃん吠えるでない、不愉快じゃ」


 ゆっくりと振り返った女王は、眉間にシワを寄せながら取り囲む兵士たちを睨みつけ、黙らせる。

 体中に感じる恐怖に、兵士たちはそれから誰一人として口を開かなかった。

 スッと表情を戻した女王は、再び足元にいるアリスを見下ろす。


「今の暮らしから抜け出したいか?」

「え?」

「人間を辞めるのであれば、お前に豊かな暮らしを与えてやる。どうする?」


 アリスは、女王の言っている意味がよくわからなかった。特に、“人間を辞める”という部分が。だけど、それ以上に女王のその言葉はアリスには非常に魅力的だった。

 “豊かな暮らし”。それは、ご飯が食べれて、美味しい水が飲めて、眠る場所がある。この人についていけば、それを手に入れられる。幼いアリスは、深いことまでは考えなかった。ただただ、もうあそこには戻りたいくないという一心から。


「食べ物や飲み物。眠る場所に困らないのであれば……」

「あぁたらふく食わせてやる。たらふく眠らせてやる。主が、妾のために人を辞めるのであればな」


 アリスはこくりと頷いた。女王は満足そうな笑みを浮かべると、開いていた扇を閉じ、アリスに背を向ける。


「この者に食事を与えよ。いや、その前に風呂に入れてやれ。服も、もう少しまともなものを着せてやれ」

「あっ、ありがとうございます!!」


 去りゆく彼女の背に向かって、アリスは感謝の言葉を述べた。


「良い、気にするでない」


 だが、彼女が不敵な笑みを浮かべていたことには、当時のアリスは気づいていなかった。

 こうして、貧民街から赤の城に住むこととなったアリス。だが、彼女は知らなかった。どうして自分みたいな人間が、女王に手を差し伸べられたのか。そして、のちに彼女は知ることとなる。自分が化け物製造の計画【最強兵士計画フォルモス・ソ・ダートピア】のモルモットとなったことに……。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ