19.5話
アリスとハンプティが自国へと連れていかれている頃、先に目的の場所についていたジャックは、洞窟の吹き抜けた場所で、空を見上げていた。
三人で暮らしていた場所と似て、中央に浅い泉のような場所があり、さらにその中央は一段上がった岩床の空間。そこに腰掛け、ただボーッと空を見上げる。
鳥の鳴き声が聞こえ、見あげる先では不思議な鳥がくるくると回っている。
お腹が鳴り、口の端からポタポタと涎を流したジャックは、洞窟の出入り口に目を向ける。
「アリス……ハンプティ……」
【竜の洞窟】はかつてジャックが住んでいた場所。呪われた竜が住んでいると言われ、誰一人足を運ばず、孤独に暮らしていた古巣。
聞こえるのは、水の音と空からたまに聞こえる鳥の鳴き声、そして迷い込んできた動物たちの唸り声や怯える声。
ジャックはそのままその場で眠りにつく。冷たい岩の上。しんと静まり返り、不安を煽る空気。昔はこれが当たり前だったのに、ジャックには今のこの空間が寂しくて、心細くて……じっと出入り口の方を見てしまう。
《私たちと来ない?》
きっとまた、あそこから二人は何気無い顔でやってくる。そう信じて、ゆっくりと瞼を閉じていく。
「一人は寂しいよ……」
人の温もりを知った孤独な竜は、一筋の涙を流して眠りについた……




