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未来視軍師と紅の剣姫  作者: 暁紅桜
一章《平穏と焦燥》
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1話

 たくさんの不思議が飛び交う世界ワンダーランド。人間はもちろん、言葉を話す動物や、動物の耳をつけた人間、特別な力を持った人物。ありとあらゆる“不思議”が当たり前のように世界。

 そんな世界には、二つの国が存在し、互いの領土を手に入れるために戦争を行なっている。

 それはもう何年も、何十年も続く、ひどく退屈な戦争。

《東の赤の国》と《西の白の国》の未だ続く、無駄な戦争。

 多くの兵が戦場で血を流し、そして命を落としている。ただ、身分の高いものの欲のために、身分の低いものが手に入れようと剣を交える。

人々は、いつのことから行われたその戦争を【紅白戦争アルルブム・ベルルフス】と呼んでいた。

 各国には、それぞれ有名な軍師と剣士がいた。

 白の国の軍師は“未来を見ることができ”、その力を使って、彼は自国を勝利へと導く。

 赤の国の剣士は“人間離れした戦闘力”を持っており、彼女は自国を勝利へと導く。

 しかし、半年前の戦争から突如として二人は戦場から姿を消した。それまで、軍師の力によって勝率の高かった白の国は敗戦を続け、戦闘に特化した国である赤の国が勝利を納めていた。

 だが、互いの国の女王は奥歯を噛みしめる。いなくなった二人は、女王たちにとっては必要な存在だった。どうしても、どうしても再び二人を自国に連れ戻すと、そう考えていた……



 中央領土《桜蘭スリジエ》。赤の国の領土でもなく、白の国の領土でもない、二つの国の中央に存在する領土。別名《訳ありの土地》。

 ここに住まう者は、かつては赤の国に住んでいたり、白の国に住んでいたりしていた者たち。だけど、訳あって国にいることができなくなった者たちが、共に助け合って生活をしていた。

 お互いに素性を明かさず、過去に踏み込まず、ただただ今を精一杯に生きる幸せな場所である。

 その領土に存在する大きな森。その中にある十人にも満たない人々が暮らす小さな村。大きな湖があり、その中央には森のシンボルである大きな木がある。

 暖かな時期にはピンク色の花が咲き、夏になれば緑色の葉を付け、涼しくなってくればオレンジや黄色の葉を付け、冬になれば白い花を咲かせる不思議な木。

 その木の側には、一軒の家が建っていた。

 他の村人たちとそう変わらない大きさの、木と石でできた家。煙突からは煙が上がり、鼻をくすぐるいい匂いがしている。


「よしっ、朝ごはん完成」

「アリスぅーお腹減った」


 台所で朝ごはんを作る彼女の足元で、小さな生き物が見上げながら声をかける。


「もうできるよ。だから、いつも通りハンプティさん起こしてきて」

「はーい」


 背に羽を生やした生き物は隣の部屋へと向かい、朝食を作っていた少女は、木製のテーブルの上に食器を並べ、作った料理を乗せていく。


「ハンプティー、起きろー!」


 声と共に、激しい物音が聞こえる。

 何か大きなものが落ちつ音、ガラスが割れる音、本の山が崩れ落ちるような音。たくさんの音がほぼ同時に鳴り響き、しばらくすれば先ほどと同じように静寂が生まれる。


「う……おはようぉアリス」

「おはようございます」

「アリスご飯!」


 隣の部屋から現れた男は頭を書きながら挨拶をし、少女もいつも通りの返事を返す。

 役目を終えた生き物は、少女のそばに駆け寄って食事をせがむ。


「はぁ……ジャックじゃなくて、アリスに起こしてほしい。目覚めが悪いんだよ……あと乱暴」

「ハンプティーが起きないから悪いんだよ」

「というか、いいかげん自分で起きてください」

「アリスがおはようのキスしてくれたら考えるけど?」


 席に着き、隣に座る彼女に男は笑みを浮かべる。しかし、少女は勢いよく男の頭を叩き、手を合わせて食事を始める。


「つれないなぁ……でも、そういうところも可愛い」

「そういうのいいので、早く食べてください。冷めちゃいます」

「うまぁー」


 微笑ましい食事風景。しかしこの二人、いや三人は、訳あってここで共に生活をしている他人である。結婚しているわけでも、付き合ってるわけでもない。ただ、国から逃げるために共に生活をしているだけだった。



 彼女の名前は《アリス・A・カーマイン》。元赤の国の出身で、敵国である白の国からは【紅の剣姫クリムゾン・プリンセス】と呼ばれていた、最強の剣士。

 男の名前は《ハンプティ・ダンプティ》。元白の国出身で、未来視の力を持った自国の軍師をやっていた。

 生きもの名前は《ジャバウォック》。かつて呪われたドラゴンと呼ばれ、森の奥の洞窟で一人暮らしていた、孤独な龍。

 アリスとハンプティは、無意味な戦争から逃げ出し、その途中でジャックと出会い、三人で共に生活を送っていた。

 かつて孤独と無意味を感じていた三人が出会い、今では戦争のことなど考えずに、味わうことのできなかった“幸せ”を味わっていた。


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