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その日は、本当にいつも通りの日だった。
いつも通り、無駄な一日だった。
だけど、あの瞬間だけはいつもと違うものだった。
空は曇って、分厚くて黒い雲が空を覆い、光をまったく地上に照らそうとはしなかった。遠くから重く響く雷の音。もうすぐ雨が降るかもしれない。人々はそれに焦りを感じて、どんどんどんどん戦いのスピードは上がった。
静まり返り、肌を刺すほどの冷たい風が戦場の上を走り抜けた。
先ほどよりも空は暗くなり、響き渡る雷鳴は重く、地を揺らすほどに響き渡る。空からは、ポツポツと雨が降り出し、鼻につくのは湿った土の匂いではなく、辺りに転がる屍の死臭。
その中で、地に膝を着いて少女は見上げていた。虚ろな瞳。生気はなく、ただ糸の切れた人形のように全く動こうとしなかった。
真っ赤な服と月光に照らされたような綺麗な金髪。吸い込まれるような蒼眼。
また一日が終わる。いつものようにこのまま立ち上がって城に戻り、汚れた服を脱いでシャワーで血や泥を落とす。今日は雨だから、いつものお茶会は開催されていないだろうと思い、それを残念に思いながらベットに入って眠りにつく。そして、また一日が始まる。
そう……いつも通り……
「あぁ……近くで見るとなんとも……」
不意に聞こえた声に、少女はゆっくりと振り返った。
白い軍服に身を纏った男は、優しい笑みを浮かべた。敵国の軍人だとわかったが、少女は腰の剣に手を添えようとはしなかった。
「なぁ、この戦をお前はどう思う?」
じっと男を見つめながら、少女はその言葉に対しての返答を彼に返す。
ただ淡々と、感情なんてない。ただの何気ない会話をするかのように。
「くだらないと、そう思ってます。戦争、というよりは、ただの”殺し合い”です。
国のためじゃなく、ただただ自身の欲望のために動いてるだけです」
欲求を満たすために剣を振るい、誰かを殺す。【殺人は罪だ】と法律で定められても、戦争になれば、それは罪には問われない。
誇りも忠誠も何もない。ただの”無駄”な戦争だ。
「私と一緒だな。私も、この戦争をくだらないと思ってる。領土など、大きくしたところで何も得られない。人を蹂躙させても、ただ罪を重ねるばかり。実につまらないよ」
男はゆっくりと手を伸ばし、再び少女に笑みを浮かべた。
「なぁ、一緒に逃げないか?」
まるでデートに誘うように、男は少女にそう尋ねた。
降り続く雨。少女の体についた血は流れ落ち、雨に濡れた少女はじっと男の顔を見つめ、その手を取った。
数時間後に雨は止み、分厚い雲の隙間から陽の光が差し込んだ。
いつものように悲惨で無駄な戦争。だが、もう何度目になるかわからない戦争の最中、赤の国の剣姫“アリス・カーマイン”と白の国の軍師“ハンプティ・ダンプティ”が、姿を消したのだった……