1 現実を知ってしまうの巻
気付いたら異世界で貴族っぽい家柄で自分もなかなかのイケメンで。
そして魔法があって、しかも自分に魔法の才能があって英才教育を受けられたんだぜ?
これは勝ち組、俺の将来は安泰だーって喜んでもおかしくないだろう。
才能があるから出来る、出来るから熱中して、努力もすることになって実力も上がって……
貴族の家だと十二歳くらいまでは家で教育して、その後は学校に通わせるそうなので。
俺も学校に行ったわけだ、この魔法の実力ならハーレム間違いなしと自信を持って!
ジャルケント子爵の次男、レイモンドこと俺の名前をこの国に轟かせてやる!
そういう気持ちは一か月後には無くなっていた
理由は最初に言った通りだ!
魔法使いが花形だった時代はとっくに終わっていたんだよ!
今は魔法使いより、魔道具技師の方が社会的地位が高いくらいなんだ!
そして戦争は全て、魔石使用タイプの銃を持った兵により行われている!
火薬じゃ無くて魔石だけど実質的に何の違いもないぜ!
多種多様な大砲もあるぜ! 大砲一発が、俺の全力魔法より強いぜ!
手投げ爆弾とかも当然あるぜ! 威力は俺の魔法より、これも強いぜ!
じゃあ、なんで、魔法使いなんて、まだいるんだよ!
理由は簡単だった。我がジャルケント子爵家は建国以来の筆頭宮廷魔術師の家柄!
伝説の初代国王の血も引くと言う由緒ある家柄!
だから貴族としての権利も保護されていて、時代遅れの魔法にこだわることも許されていて……
でも時代遅れだ! 少しずつ衰退していることは間違いない!
我が家の祖、初代の筆頭宮廷魔術師以来という俺の魔法の才能も今の時代では……
へー、すごいねの一言で、終わらせられてしまう程度の扱いだった
もう、なんか、由緒ある文化財だから、一応保護しときましょうみたいな
絶滅危惧種だから大事にしないとねって皆に生暖かく見守られているかのような
俺はトキか何かのように皆に見られて扱われて……
違う! こうじゃない! 俺はこんな待遇は望んでいない!
畜生……中世ファンタジー風な世界だったらきっと俺は無双できたのに
そしてハーレム構築も間違いなかったのに……
今のこの世界は、銃が標準装備、大砲もあり、手投げ弾もあり……
ただ、まだ戦車とかは無いし、飛行機も無い。騎兵が現役で活躍している段階。
つまり第一次大戦前くらいの段階?
大航海時代は終わって、産業革命が起きて、帝国主義が勃興した近代と中世の間くらいの……
日本史で言えば江戸時代の後半から明治くらい……日清戦争とか日露戦争の時代の軍備は大体そんなもんだったような気がする。だが違う点もあるよな。
肝心なポイントは鉄道も蒸気船もまだ無いこと、ただし既に火砲に革命が起こってること。
ナポレオン戦争の時期はこんな感じだったのだろうか。
なんで、そんな中途半端な時代に……
いや中途半端って言っても、そういう時代も世界史の中では数百年は続いたんだけど……
異世界だからって中世ファンタジーとは限らないよねって、そんな現実感はいらねえ!
とか言っても仕方ない。現実は現実だ。
前の世界における産業革命と似た出来事はこちらでは魔石革命という。
それまで魔石は天然のモンスターの体内から取れるだけのものだった。
それだけでも有効に活用できることは知られていたがモンスターの数も限りがある。
その状況が変わったのは、それまで何の価値もないクズ石と思われていたとある鉱石をだな
加工して、魔石に変える技術が発明されたからなんだ
クズ石は今では原魔石と呼ばれており、そして大抵の鉱山からザックザクと取れるんだ
鉄鉱山だったら鉄鉱石を1とる間にこのクズ石が3くらい出てくる勢いだった
銅鉱山とか金鉱山でも似たようなものだった。そして邪魔だから適当に放置していた
ゆえに世界中の鉱山の横にこの原魔石の山が既に出来上がっており……
現在の時点では資源枯渇の可能性とかゼロだ!
原魔石を魔石に加工する技術は本来なら秘匿されるべき重要技術であっただろうに
その発明者は、なぜかそれを世界中に意図的に普及させた
どうもこいつも前世の記憶持ちだったのでは無いかと俺は疑っている
そういうことを当時の中世的価値観の世界でやるやつは、普通いないだろ……
だが発明者の正体の詮索はともかくそいつのおかげで技術は一瞬で全世界に広がってしまって
そして世界は激変した。
中世的な封建制だった世界は一挙に変化して……
王家が上手くこの流れに乗った地域では、絶対王政が確立された場合もあり
それが出来なかった場所では、君主は名目だけの立憲君主制に移行してる国もある
まだ完全な民主制の国は少ない、少ないけどある、あるけど弱いって段階だな。
だけどまあ絶対王政の国だって王様は今では機関の一種だよね
王権が強いってなっているけどその下の官僚組織の方が実際には強いし
官僚組織の一種である、今の軍隊の方が強いのであって
貴族を集めて貴族院を作って法的な権限を与えて、王権の補助役にしてみても
実権は既に庶民にあると思うね……
庶民から官僚が出て、官僚組織がこの国を動かしているのだから
貴族院に対抗する、庶民の代表が集まる議会、衆議院の設立を求める運動も活発だし
それが設立されたらますます事態ははっきりするだろね
そしてそのうち庶民出身の議会の方が貴族院を圧倒して王権にも口出しするようになって
いつか国家の代表も国王では無くなり、衆議院で過半数を取った政党から出るようになれば
もう民主制だね。王様が残っていても革命で消えていても大して変わらんのだろうな。
こんな時世において、時代遅れの魔法文化を継承する家に生まれた俺はどう生きればよいのか
子爵って所詮、下級貴族であるし貴族としての権限も大したこと無いし
なんというか、田舎の町の、代々の町長程度の地位を世襲してるだけと思ってくれて良いよ!
そんなもん大した地位でもねーんだよ! しかも俺、次男だしな!
我がレシム王国は、初代が今でも人気者の英雄だったこともあり王権が強い国で
貴族院もそれなりに権限はあって、我が家も議席を持っているけれど
時代の流れには勝てないと思うね
王家が人気あるから、そのうち時間の問題で、立憲君主制に移行するのでは無かろうか
しっかしこういう実質的に近代に等しい時代だと、俺の生きてた現代日本と大して変わらんな、もう
個人の力でどうこうとか出来る余地ないわ。軍隊も集団であってこその時代
魔法使いとして戦場で活躍とか無理だしな……
目立ったら、集中射撃を食らっておしまいになるだけ
まあ幸い俺の魔法の才能だけは本物であるし
これと現代日本の知識を組み合わせて、魔道具技師になるのを目指すかな……
まだ騎兵が現役の世界、つまり物資の運搬は馬頼りの世界だから……
蒸気機関か、もしくはそれと同様の役割を果たす魔石燃料のエンジンでも発明出来れば
きっとすごいことになるな、それを目指してみようか
つまり夢はこの世界におけるワットってとこかな!
俺は王立学園に入学して半年で、魔法使いとして活躍する道などすっぱりと諦めた!
出来れば研究者になって、蒸気機関に該当するこの世界独自の魔石機関の発明を、それが無理なら堅実に魔道具技師になって安泰な生活することを目指すと決めた!
我ながら正しい方向転換だったと思う