生まれ変わって美少女になりたい男の話
転生というのは本当にあるらしい。
ただし、転生前の記憶はおぼろげで、殆ど覚えていなかったり中途半端に覚えていたりするものだ。
彼女も出来ず、童貞のまま事故で死んだ僕は転生の権利を得た。
そこで、神様にこう言ったんだ。
「出来れば美少女に生まれ変わりたい。そして綺麗な彼女を作りたい」
ってね。
そして、一つ目の願いは叶った。
物心ついた頃には、鏡の中にいる美少女――まぁ、自分なんだけど――に見とれていた。
親はそれなりに裕福で、千絵と名付けた「私」に、よく可愛らしい服を買ってくれた。
体の良い着せ替え人形のようだったが、鏡の前でモデルよろしく無邪気にくるくると回り、その現状に満足していた。
前世の記憶がおぼろげに残っているので、私が元男だというのは認識していたけれど、鏡の前で自分の姿を見ていれば満足出来た。
元の自分の容姿はもう思い出せないが、きっと容姿にコンプレックスがあったのだと思う。
中学に入る頃には、前世の事も殆ど忘れていたのだけど、自分は男なんだ。という認識だけは持っていた。
だから、体育の授業中に女子とスキンシップをするのは役得だと思っていたし、裸も見放題なのは天国だった。
でも、男子からちょっかいを出されるのには閉口していた。
自分で言うのもなんだが、見た目は美少女である。でも、心は男なので彼らの気持ちは痛いほどわかった。
だが、同性に性的な目で見られているようで、やはり気持ちがわるいのだ。
「千絵は男子苦手だよね」
「ウブなんでしょう?」
なんて友人からはからかわれたが、私は笑ってごまかす事にしていた。
ただ、この頃の女子中学生は意外と耳年増で男以上にエッチなコトに感心があったのにはびっくりした。
少女漫画の影響もあるのかもしれない。
友人から借りた少女漫画は直接な結合描写は無いものの、明らかに性行為を描いた内容で、男だったら、絶対シコってたとおもう。
中学三年の頃、転校生がやってきた。
麻生美代と黒板に名を書く。
短いショートボブで、ややきつめだけど、読者モデルに出てきそうなすらりとした体型で、立ち姿も様になっていた。
綺麗な子だなぁ、と思って彼女をじっと見ていると、不意に目があった。
急に恥ずかしくなり、私はふっと目線をそらせてしまった。
下校時、声をかけてきたのは彼女からだった。
「何か?」
内心ドキドキしながら、彼女の応答を待つ。
「ごめんなさい。最寄り駅の道を忘れてしまって……」
何で私が。と思いつつも、美少女のお願いは断れない。
「しょうが無いな。ついてきて」
そういって、彼女を案内する。
「麻生さん、電車通学なの? 学区外?」
「ええ、まだ引っ越しが終わって無くて、それでも早めになれておいた方が良いだろうって無理に来てるの」
「そうなんだ。え、でも電車だと遠いんじゃない?」
「そうね。電車で1時間くらいかしらね」
それは大変だ。私なんて、徒歩二十分でも面倒だって思うのに。駅からでもここに来るのに10分はかかる。
私が返答に困ってると、彼女は話題を変えてきた。
「でも、意外と皆無関心なのね。もっと質問攻めにあうのかと覚悟してきたのだけど」
「あぁ。まぁ、もう受験の追い込みだからね。皆それどころじゃないんだよ。それか――」
「それか?」
「麻生さんが美人過ぎて、声掛けづらいか」
その言葉で、彼女がクスっとわらう。
美人は笑っても美人なのか。と、私はふわふわとした気分になる。
「そうね。佐藤さんも私の事を見て、目をそらす位ですものね」
「あ、あはは。麻生さんが美人だと思うっていうのは本当だよ。だからついガン見しちゃって。ごめんね」
照れ隠しで頭を掻きながら彼女に謝罪する。
気づけば、駅まで来ていた。
「じゃぁ、ここで。歩きながら話してたから道覚えなかったかな。ごめんね」
「いえ。有難う。でも、私も佐藤さんと話をしたかったから」
その一言で胸をわしづかみにされたような感覚になった。
「じゃぁ、また明日」
「じゃぁね」
美代とはこの一件以来、意外なほどすんなり仲良くなってきた。
進学の高校を決める時、そこそこの学力があった私は、公立の中でも比較的偏差値の高い高校を選ぶことにしていた。
美代も同じ高校を受けるらしい。
他の友人は残念ながら、受けられるレベルに達していないし、流石に周りに合わせてレベルの低い学校を受ける訳にはいかない。
「高校になったら離ればなれかぁ」
「まぁ、高校になっても普通に遊べば良いんじゃない?」
「それはそうだけどさぁ……」
「ところで千絵、麻生さんと同じ高校に行くんだよね?」
「うん。うちの中学からは麻生さんと私だけだねぇ」
「そうなんだ。じゃぁ、一応耳に入れておいた方が良いかもね」
「何を?」
「麻生さんがレズビアンっていう噂」
「はぁ?」
「千絵はそういうことはあんまり気にしないし、かといって知っても距離を置くと思わないから言ったけど。元同中の子が来たら結構言われる可能性があるかも」
「……なんでそれを私に言うの?」
「え、だって、千絵、彼女の事好きでしょう?」
「えっ? ええっ!?」
「千絵は綺麗な女の子は皆好きだし。よく彼女を目で追ってるし。ってそんなうろたえてるって事は~?」
「ちょ、意地悪すぎ!」
「ははっ。ごめん。私もあんまりその辺気にしないし。気にしてたら彼女と普通に接してないよ。だから、友達の千絵がちゃんと彼女を守ってあげなさいよ」
そんな友人の忠告がすぐに現実のものとなった。
試験会場で、目つきの悪い女子が美代に絡んでいた。慌てて彼女の元に行くと、私の方を見て、大きく目を見開いて舌打ちする。
「ふぅん、新しい中学では、こんな可愛い子をたらしこんだんだ」
「……っ、彼女は」
「へぇ、やっぱ『彼女』なんだ」
明らかに侮蔑をまとった言葉に鳥肌が立った。なんだこの小学生レベルの煽りは。
……あれか。これが「元同中」の女か。
「美代。そろそろ行こう」
彼女の腕をとって、その場を去ろうとする。
可愛そうに。
腕が震えてるじゃないか。
過去に何があったのか余り詮索したくないけど、きっといじめられていたのだろうな。
「待ちなさいよ貴方」
「うるさいわね、私の『彼女』に何か用? 私は急いでるの。それじゃぁね」
意趣返しとばかりに、目の前の女に言葉を浴びせ、強引に美代を引きずった。
階段の踊り場までくると、美代の足取りはフラフラだった。
「大丈夫? ごめん腹がたって無理矢理つれてきちゃって?」
「うん、大丈夫。有難う」
「もう試験も終わって帰るだけだし、ここで落ち着こう」
「うん……」
しばらく沈黙が流れ、そしてそれを美代のほうから破った。
「さっき、私の事、『彼女』って言ってたけど、大丈夫?」
「あ、ああ。だって、ほら。私は美代のことは好きだし。美代だって私の事は嫌いじゃないでしょ?ならいいじゃん。『彼女』で」
「……でも、その好きの意味は私と千絵とじゃ違うわ」
「まぁ、そうかもしれない。美代はその、ビアンなんでしょ?」
「……知ってたんだ」
「知ったのは最近。私はビアンではないけど、女の子が好きなんだよね」
「え?」
「性同一障害……とはちょっと違うんだけど、同じようなものかな。心は男なんだよね。残念なことに。だから、美代が求めてるのとは大分違うと思うんだけどさ。多分好きって意味は同じじゃないかなぁ。って、ちょっ」
不意に美代が抱きついて、耳元で囁く。
「私の事、好き?」
「うん」
「性的な意味で?」
「うん」
「キス……していい?」
「……学校をでて、人が居ない所でならね」
そういって、ポンポンと背中を叩く。
美代のすすり泣くような声が私の耳に響いていた。
R18にするべきか悩みましたが、ここまでで綺麗にまとまったので蛇足になると思いあえてR15のままで留めました。
よしなに……。