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第十五話 遠い絆

 第15話 遠い絆


「それじゃあクロエちゃんのそっくりさんの話から始めましょうか」

 そう切り出したノームは、しかし初めの言葉を考えているようだった。そしてクロエも考え事をしている。


 そもそもここまで来たのは第三にして最後のゲーム「ノーム探し」のためだ。苦労してなんとかノームを見つけ出したクロエは、自分が大きく喜びを表していないことに気がついた。6人目の公式発見者となったのに、そしてフィルの命を救ったのに、どうして嬉しいという気持ちが出てこないのだろう?

 たぶん疲れているのだ。

 もう半日近く動き回って平気な顔していられる方がおかしい。

 肉体的にも精神的にも消耗を強いられる状況を半日も続けていられたのは、親友を助けたいという願いと想いの力が土台になっている。最後のコーヒーを一口つけてクロエは確信する。私はフィルを助け出したいのだ。

 だが目の前の小人は中途半端にこちらの事情を知っていた。どうやって知ったのかは定かではないが、ノームはフィルの命を危険に晒すマネをしてくれた。最後のゲームをクリアしたとはいえ笑って過ごせるような状況なんかではない。

 こうしてノームが言葉を考えている間にフィルの眉間に銃弾がぶち込まれているのかもしれないのだ。あるいは首が地面を転がっているかもしれない。もしそうなっていた時はこいつに責任をとってもらおう。心の中で拳を握りしめたクロエはやっと話し始めるノームに注意を向けた。


「あの白衣の彼女はシロというの。魔科技の若い天才でね、プロジェクトファンタズマの重要な部分を任されていたの。私を担当していた専属研究員でもあった」

 漫画の世界では人工生命を研究するものといえばマッドサイエンティストか、そうでなくてもその気質のあるものというのがセオリーだ。そんな連想が頭に浮かんだクロエは、話を早く進めるために問いを投げかける。

「あなたとシロっていう研究者の関係はどうだったの? 最悪な感じだった?」

「いいえ。どういう想像をしているのか分からないけど、クロエちゃんが考えているようなことはないのよ。私の魔法を記録したり、一緒に散歩したり、ごはんを食べに行ったりした。私とシロは親友同士の間柄だった。あれだけ芯の強い女の子はそうはいないと思う。もう8     00年も過ぎた遠い絆だけど……いまでも昨日のように思い出せるわ」

 クロエの想像は外れていた。だが自分に似た人間が悪事を働いていないとなると、それはそれで安心するところがある。

「ほらこれ、見てくれる?」

 そう言ってモニタの裏から取り出したのはアンティーク然とした木のフレームの写真入れだった。どこかの公園のベンチで、空色のワンピースを着たノームを白衣姿のシロが座って抱えているのが切り取られている。

 現代とそう変わらない都市の姿を背景に見たクロエは、これが公共の場所で撮られたのだと直感した。少なくとも物々しい研究所の中という印象は受けない。

 しばらく写真入れを見せたノームは写真が収められたガラスの部分に触れた。すると切り取られた一場面が動き出す。想像してない一連の出来事にクロエは驚きを隠さなかった。

「わっ! これ、ホログラムってやつか」

 ノームは黙って頷き、続きを見るように促している。

 ホログラム機能付き写真立て。こんなものに魔法やらが関わっているわけがない。純粋な科学技術で出来上がっているはずだった。そしてホログラム技術は現代でもよく使われている。800年以上も前の文明のものという証明にはならない。

 動く写真は楽しそうに微笑むノームと、そんな彼女を穏やかに見守るシロが立ち上がり、その日の夕飯について語らっているのを映している。シロが夕飯の希望を訊ね、ノームはクリームシチューと答えているのを聞いたクロエは、すぐにそれが止まったのを認めた

「音も出るのね」

「ちょっとお高いやつを買ったんだ。日常の思い出を残したいって話になってね」

「まあ、仲がいいということは分かったわ。それで? 話の続きは?」

「魔法が現代に伝わっていない理由。アニマノイドが創られた人類だってことが忘れられた理由。なぜアニマノイドにとって第九大陸が死の土地となっているか。そうなったきっかけを話すわ。……あの写真を撮った頃にはもう、世界は平和ではなかったのよ」

 やや顔を伏せ、しかしすぐにノームはクロエを見つめる。なにかを訴えかけるような強い目線。演技だとしてもその迫力と印象にクロエは息を呑んだ。

「つまり……争いがあった?」

「そう。世界中を巻き込んだ戦争があった。クロエちゃんはもう分かっていると思うけど、アニマノイドは元になった種に準じた能力に秀でている。例えばチーターのアニマノイドならとんでもなく足が速いとかね」

 シーは猫のアニマノイドなので身軽にひょいひょい跳んでいたのかもしれない。第二のゲーム、東の島で起きたことを振り返ったクロエは納得したように頷く。

「結論からいうとアニマノイドの能力は人類を上回る場合が多かった。私だって土に関連する魔法を自在に操れるしね、ここの洞窟だって自分で作ったもの」

「戦争のきっかけは能力の差が理由ってこと?」

「そうなるわ。人類に牙を向いたアニマノイドたちのリーダーは火の精霊・サラマンダー。彼は自然界の法則にのっとって弱肉強食の世界を創ると宣言したの」

「どうしてそんなことを?」

「能力で劣る人類に服従するような生き方はやめにしよう。人類もアニマノイドに服従するのなら生かしておこう。サラマンダーの主張はとてもシンプルだった。そして彼は多くのアニマノイドと人類を傘下につけ、ルールオブネイチャーズ――RONと呼ばれてたんだけど、そんな独立国家を立ち上げて世界に戦争をふっかけた」

 怒りの滲んだ声だった。ノームにとってサラマンダーと、そいつがふっかけた戦争はいむべきものだったのだろうとクロエは思う。そこでノームは次の言葉を考えるためか、大きく深呼吸するのをしばらく続けていく。


 現存する世界の仕組みを壊そうとしているのなら、それはテロリズムというものではないか? 元から飛躍していた話がさらに明後日の方角へ向かうのを心の中で反芻しながら、クロエはツッコミをいれようとしてやめた。

「人類も黙ってはいなかった。RONに対抗するために戦闘用のアニマノイドを創り出したり、アニマノイドによく効く武器の開発なんかを進めていった。そうして『防衛軍』が人類の側で発足したの」

「つまりその時代は、防衛軍とRONの戦争が起きていた?」

「ええ。アニマノイドも人もたくさん死んだ。確かにアニマノイドの方が能力は秀でている。でも人類は古来から持っている武器があるの。道具を創り操る力。そうして文明をひらき、滅び、また栄える。あの時代の戦争もそんな繰り返しの中のひとつだと私は思ってるわ」

「それで、どちらが勝ったの。言っとくけど歴史の教科書ではRONだか防衛軍だかなんて単語は一切出てこなかったわ」

「勝者なんてどこにもいなかったのよ。殴り合いを続けて誰も立っていられなかった。あの戦争を終わらせたのは、RONにも防衛軍にも属さない第三の勢力――ピースサイン」

 懐かしむようにノームはその単語を呟く。ピースサイン。手でやる人差し指と中指を立てるその仕草を、ノームはゆっくりと示してみせた。

「RONも防衛軍も魔科技の有力者たちを抱えていた。単純な暴力だけではなく、知識や技術も必要な戦争だったからね。もちろんピースサインも魔科技の人たちの力を借りていた。どこにも属さないということは、どことも戦うってこと。平和は中立を意味しないし、逆もそうなんだ」

「ああ、まあ……言いたいことはわかるわ」

「そして私はピースサインの側のアニマノイドだった。もちろんシロもこちらがわの技術者、研究者だった。ピースサインの目的は戦争状態にある世界を平和にすること。つまり――戦争をなくすことが目的だった」

「というと、ピースサインは2陣営と同時に戦った?」

「そうとっても良いかもしれない。でも直接戦ったわけじゃない。攻められることはあったけどね。私たちはアニマノイドが反逆を起こすなんてことがありえないってことを知っていたんだ。初めにアニマノイドを創り出す時にそう設計したんだから」

「ロボット三原則みたいな話ね。それで? サラマンダーはファンタズマでしょう、ノームもそうだけど。ファンタズマにその設計はあてはまるの?」

「もちろんそのはずよ。だって私もサラマンダーもアニマノイドなんだから。私は反逆を起こす前のサラマンダーとは交流が深かったし、あいつが元々、人類が上でアニマノイドが下のような世界を気に入らなかったのを知っている。そこでなんらかの『変異』があったんだろうって推測がたった。実際どうだったのかは分からないんだけどね」

 小さな肩をすくめてノームがため息をつく。それからなにかを言おうとして、不味い飲み物を口に含んだかのように苦い表情を作った。

 やはりノームにとって苦手な存在だったのだろう。そんな考えを巡らせたクロエはAR眼鏡がもうじき午後9時を指そうとしているのに気づいた。早くゲームマスターと連絡をとらないとフィルが危ない。


 だが、ノームは語るのをやめようとしなかった。適当に相槌を打ったりして話を進め、切り出す時に切り出そう。方針を固めたクロエは、ノームが重い調子で口を開くのを見た。

「サラマンダーの周囲にいるアニマノイドに、まるでウイルスが感染していくかのように人類に対する敵意は広がっていった。だからピースサインは、変異して『目覚めてしまった』サラマンダーが変異を広げているものと推測したの」

「ふうん……それで?」

「サラマンダーがアニマノイドを制御する方法を知ってしまったのだと考えたわけ……魔法での制御。成り立ちに魔法が関わっているなら、それで行動を封じられない道理がないでしょう?」

 言いたいことはなんとなく分かるが――クロエは困ったように頷いた。想いを形にするという力はあまりにも曖昧で、大雑把で、乱暴らしい。

「つまりアニマノイドを制御していたのは魔法の力で。サラマンダーってやつはひとりでその制御を抜け出して、自分の魔法で周りのアニマノイドたちを仲間にしたってこと?」

「ええ。解かれた魔法は二度ともとに戻せない。そのことはピースサインの人だけが知ってたわけじゃない。RONも、防衛軍も、みんな知っていた。だから方法を探し出して、あの荒れた世界をどうにかしようと必死になっていた」

「つまり……3陣営の努力の結果が現代の世界ってこと?」

「そうともいうかな。先に行動を起こしたのは防衛軍だった。奴らはアニマノイドだけに効くウイルスを開発して、RONの支配地域にばら撒いた。感染したアニマノイドの致死率はほぼ100%で、そこはいまでもアニマノイドが暮らせない土地になっているんだ」

「まさかそれって第九大陸のことなんじゃ?」

 記憶を失ってから一年間。メーベル家の養子となったクロエはずっと第九大陸で暮らしていた。あの大陸ではアニマノイドが生きられない。その理由は、本当に大昔の戦争にあるのだろうか。

「あそこは重点的にウイルス攻撃に晒されていたからね、いまでも濃度がひどいことになっているはずなんだだ。普通の人類にはなにも害がないから、そこはまあいいんだけど」

「いまでもって言い方が引っかかるわ。当時はそのウイルスがもっと広がったみたいに聞こえるんだけど」

「実際そうだったんだ。アニマノイドに死をもたらすウイルスはじわじわ広がっていた。ピースサインはなんとか防いでいたけど、防衛軍はダメだった」

「ダメって……ふつう、ウイルス兵器なんてつくるのなら治療薬のひとつくらい用意するんじゃないの?」

「用意していたのが効かなかったんだ。流れ着いた防衛軍の人間から話を聞いたよ。それでピースサインは2つの問題に直面した。アニマノイドの反乱を防ぐ第二の封印手段の模索と、広がりつつあるアニマノイドウイルスの対策法を講じること。そのどちらも一気に解決する方法は見つかったんだ」

 魔法を使ったんだろう。クロエは自然にそんな予想を立てた。そんな自分が、魔法なんてものを当たり前のように考えていることに気づき、思わず口に手を当てる。

「アニマノイドを制御していた魔法よりも強力な魔法で上書きする。問題はどうやってそれをやるかだった。手順を見つけ出すのにも時間がかかったし、そのやり方も問題だったのよ。いまどき人柱をたてるなんて時代遅れもいいところじゃない?」

「どういうこと?」

「より強力な魔法をつくるのにはより強力な想いが必要なの。そんな魔法をつくるのには犠牲が伴うのは避けられなかった。でも、犠牲は最小限で済んだわ。私たちは、ピースサインの人々は運が良かった。異世界から来た魔法使いの子孫がいたのだから」

「子孫って誰?」

「シロよ。私たちは、私たちのために、私の親友を差し出さなければならなかった」

 自分のそっくりさんが? クロエは若干の驚きを抱き、隠しきれなかった。

 ノームの話が最初から嘘だったとしても。自分の親友を世界平和のために差し出せと言われてそんなことが出来るだろうかー―フィルのことを考え、クロエは首を横に振った。

「命まではとらなくても大丈夫だった。でも、世界を長く平和に保つためには、シロを冷凍保存する必要があったの」

「人類の災厄になってしまったアニマノイドを新たに押さえつける仕組みと、アニマノイドにだけ感染するウイルスを食い止めるために?」

「ウイルスに感染しても問題ないようにアニマノイドを作り変える魔法も必要だった。異世界の魔法使いの血を継いでいたシロは、そういう魔法に適正があったの。彼女は言ったわ。自分が永久に眠るだけでノームやみんなが救われるのなら、そうしない理由なんてどこにもないじゃないー―って」

 コストだけで見ればそうだろう。どれだけの規模かは分からないが、大勢の人を犠牲にしても、シロという研究員だけを犠牲にしても、同じ魔法が編み出せるのなら誰だって後者を選ぶに決まっている。

 それに話を聞く限りではシロを犠牲にしても彼女は生きているというのだ。いまなお世界がこうして続いているということは、この世界のどこかでシロは眠り続けているのだろう。


 冷凍装置の中で眠り続ける自分に似た少女。もし自分がそうなっていたらー―ぞっとする。同じ選択を迫られて自分は眠りにつくことを選べるのだろうか。親友との時間を、フィルとの時間を永久に捨て去ってまで。

 ノームの語る歴史が真実であれ虚実であれ、クロエの想像の世界や感情は本物だ。だからクロエは「ひどい話ね」と呟く。

「ええ。あれから800年と少しが経った。私は普通のアニマノイドではないからまだこうして元気に生きてる。これからも長くたくさん生きるはず。でも、シロと一緒に過ごしていた日々を一欠片だって忘れたことはない」

「私にも親友がいる。いまは大変なことになっているけど……彼をどうにかするためにここにやってきた。ねえノーム。お話はもうおしまい?」

「ええ。アニマノイドの起源、異次元から伝わった魔法。サラマンダーというアニマノイドが起こした反乱。アニマノイドを滅ぼすウイルス。滅びそうになった世界を救ったのが私の親友だってこと……全部話したわ」

「分かった。それじゃあもう行かないと。その話が本当かどうか確かめようがないけど、映画の脚本とかで売り込めばいい線いくと思うよ」

 困ったように笑ってクロエは席を立ち、それじゃあ、と手を振って気づいた。ノームが不満そうに見つめているのだ。

「嘘はつかないって言ったはずなんだけどな。最後にふたつ聞いておきたいことがあるの」

「ええ、どうぞ」

「ひとつは……この話を他の人に話すつもりはあるかな」

「全くないわ。こんなことを話したら気が触れたんじゃないかって思われちゃう」

 本心からの答えだった。

 フィルだってこんな話を信じないだろう。ネットに書き込んでも新手の都市伝説か荒らしのどちらかとしか思われないはずだ。

「じゃあふたつめ。クロエちゃんはここから出る方法を知ってる?」

「いいや……」

「それなら案内役が必要よね? ここから山の麓まで連れてってあげる」




 洞窟の中には螺旋階段が用意されていた。ノームだけがその扉を開けられるらしく、彼女がなにもない壁を触ってから、クロエは初めて階段を目にしたのだった。

「こんな階段があったのね」

「誰にも気付かれないように細工しているのよ」

「レアキャラ探しもゆるくないわね。……そうだ、ところで」

「うん?」

「ここに来る前に妙な声を聞いたの。消えてしまいそうなくらい小さな声。帰りたいとか、そんな感じの。あなた、なにか知っている?」

 土が固まってできた階段をのぼりながらクロエは問う。

 螺旋階段はノーム用に作られたものらしく、クロエが使うには段や手すりが小さくて不便だが、かがめば使えないことはなかった。そんな彼女の前をノームが軽々と階段をあがっていたが、クロエの問いを受けてから明らかに歩をゆるめていく。

「クロエちゃん。その声はなんと言っていたって?」

「帰りたい、とか、もう一度、とか。ねえ、なにか知っているんじゃない?」

「霊的なものなのかもしれないわ。私にもよく分からないけど、でも、そんな声を聞いたのならあなたにはその種の才能があるのかもね」

 才能? 記憶をなくしてから幽霊なんて一度も見たことがないし、そもそもオカルトの類をそんなに信用していない。クロエは「ないない」と軽く飛ばし、すぐに表情を硬くさせた。

 AR眼鏡が「ネットワーク回復」という表示を投影したのだ。同時に彼女のポケットが震える。携帯電話がゲームマスターからの着信を告げていた。

「大丈夫かね、クロエ・ブルーム?」

「まさかあんたから心配されるとは思わなかった」

「1時間近くも監視から逃れていればなにがあったのかを心配するに決まっているだろう。君はこのゲームのプレイヤーだ。とにかく、無事な様子で良かった」

「私はどこも怪我をしていないし、最後のゲームも終わらせた。いまノームと一緒に地上へ上がっているところよ」

「なるほど。ならば携帯電話をビデオ通話に変えてみたまえ。……おお、これがノームか! なんてことだ、まるっきり小人だ。絵本から抜け出たような」

 誰これ? とノーム。彼女たちふたりの姿はゲームマスターに送られているが、ゲームマスターの姿は送られていない。

「ねえ。全部のゲームが終わったのなら、ノームにも自己紹介が出来るんじゃない?」

「ネクサスのレアキャラ相手ならば拡散力は低いだろう。じきに我々も撤退するのだしな。私はゲームマスター。そこのクロエ・ブルームとあるゲームをしていた。人の命をかけたゲームだ」

 物騒な話ね。すっとぼけるノームに笑いをこらえ、クロエは上を目指していく。

「クロエの親友を誘拐し、彼の命をかけてゲームをさせていたのだよ」

「あんまり趣味が良いとは言えないわね」

「金や権力があるならやってみるといい。案外、楽しいと思うかもしれないぞ」

「遠慮しておくわ。それで、最後のゲームとやらはクロエちゃんが私を見つけることだったみたいね。これで全部納得がいったわ」

「それは良かった。ではクロエ・ブルーム。いまから君の携帯にメールを送る。その通りに行動したまえ。君の親友を返そう。約束は絶対に守る。最後の最後で保護になどするものか、安心するといい」

 ゲームマスターが言い終わるのと、クロエたちが地上に出たのはほとんど同時だった。ノームに礼をしようと振り返り、そしてクロエは絶句する。

 雪の積もる山の麓。さっきまで隣にいたはずのノームの姿形がどこにも見えない。まるで幽霊のようだ。だがー―山の下で撮った写真にノームははっきりと写っている。

 四大精霊、土のノーム。アニマノイド・ファンタズム。彼女の持つ力は、魔法は、人間の理解を超えるものなのかもしれない。

 隠された歴史のことははっきりとしないし、一生かかっても出来ないものだろう。しかし。ノームが語っていた「魔法」や「異次元」というものだけは信じてみてもいいのかもしれない。クロエは長く白い息を吐き、はっと思い出して電話帳からシーの番号を探し出す。

 シーはまだ最後のゲームが終わったことを知らない。全部終わったことを早く教えなければ。そしてフィルを迎えに行こう。そして、それから……こんな最悪な一日なんて早く忘れ去りたい。


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