ドワーフと酒
ドワーフはとにかく強い酒を好む。
ああ、否定はせんよ。
大半のドワーフは味より酒精を重視する。
味など二の次じゃ。
いっそ、灯油を出しても気分良く飲むんじゃないか?
酒を売る側にとっちゃ、張り合いのない客よ。
まぁ、量は買ってくれるから、お得意様ではあるけどな。
何? ワシか?
ワシは、まぁ、変わり者じゃ。
ドワーフなのに、酒に弱い。
子供の頃はよくからかわれたものじゃ。
ん? ああ、そうじゃ。ドワーフは子供の頃から酒を飲む。
酷いところは乳の代わりにな。
その辺りは王国法を守る気なんぞ、ありゃせんよ。
軍の行軍中でも酒を飲むような種族じゃ。
酒を飲まねば死ぬ。なんて言う輩がおるが、ありゃ嘘じゃよ。
ワシが証人じゃ。
全く飲まぬとは言わんが、まぁ、一般的な人間よりは酒の量は少ないよ。
祝いの席で出た酒が飲める程度じゃ。
まぁ、そんなワシじゃからこそ、本当に美味い酒というのは知っているつもりじゃ。
だからこそ、こうしてここまでコイツを採りに来たんじゃからな。
そう、この実を採りに来たんじゃ。
ほれ、食うてみろ。
――くっ、ははははは! やはりキツイか? おまいさんは結構イケるように見えたんじゃがの。
そう、この実の果汁は天然の酒じゃ。
世界初の酒と言われておる。故に、この実……酒の実の名を取って、酒精を含む飲み物を酒と呼ぶようになったとか。
――本当かどうかは、知らん。後付けじゃろうな。
ほれ、水で割れば良い塩梅になる。
ワシもコイツだけは、好んで飲むよ。
――どうじゃ、イケるじゃろ?
気に入ったなら、いくつか持っていくと良い。
心配せんでも、依頼料から引いたりはせん。
ま、根こそぎ持っていかれると、流石に困るがな。
……あん?
何でこの実を栽培しないのか、って?
あー、まぁ、良く分からねーけど、栽培すると、酒精の無いただの実になっちまうから。
ってのが大きいわな。
いや、ワシに聞かれても、その理由まではわからねーよ。
ただ、まぁ……
この酒の実を食った鳥だとか小動物は、当然酔っ払う。
で、あっさりと肉食の奴等に食われちまう。
どーも、その血やら何やらを吸って栄養にしてるんじゃ無いか?
って学者さんが言ってたな。
――だろ? いや、ワシだって気持ち悪いわ。
だけど、ヘルプラントみたいなモンスターも居るんじゃし、そうやって酒精を使う植物もあるんじゃないか?
まぁ、そんな狡猾なヤツなんじゃ。
栽培されて世話されて、安定した生活になったら、酒を作るのも止めちまうんじゃないか?
安定した生活に慣れちまったら、冒険者もウデを鈍らせるしな。
それと似たようなモノじゃろ。
――さて、こんなものかな……よぉいしょぉっと!
ほれ、帰りも頼むぞ。
ああ、そうそう、酒精を使うといえば、おまいさん、踊り蛇は知っとるか?
――ああ、違う違う。
踊る蛇じゃなくて、躍らせる蛇じゃ。
……知らんか?
確か、討伐ランクは……4じゃったか。
そう、武装した兵士でも、やられる可能性があるようなモンスターじゃ。
ん? 噛まれたら酔っ払うのか、じゃと?
それより、もっと怖ろしいわい。
何せ、コイツは毒――まぁ、お察しの通り酒精なんじゃが、それを辺りに撒くんじゃ。
毒を吸い込んだエモノは、酔って踊っているように脚がもつれるんじゃな。
そうしてベロベロに酔ったエモノを絞め殺して——パクリ——ってな。
かなりタチの悪いモンスターじゃよ。
……じゃが、コイツの毒はつまりは酒。
かなり強いが……美味いぞ。
見つけたら生け捕りにして持って来るがいい。
いい値段で買い取るし、踊り酒も振舞ってやるわい。
ん? おう、生け捕りじゃ。
死んでたら毒も出さんでな。
肉はクソ不味いし、皮も使い物にならん。
死んでたら、価値なんざありゃせんわい。
……っと、着いたな。
どっこい……しょ、っと。
とりあえず、おまいさんの仕事もここまでじゃ。
ご苦労じゃったな。
ほれ、仕事終わりの乾杯じゃ。
ま、エールじゃがな。
あん? エールは平気なのか、って?
バカ言え。エールなんか酒のウチに入るかよ。




