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3.イシヅ・マイユ

 離乳食というのも中々に美味いものだ。


戦場では常に馬上にいたため、干し肉や丸ごとの果実等であった。調理された食事など口に入れる機会はほぼ無かった。


 この離乳食、ヤギ乳でグスグスに煮込んだ麦に摩り下ろした野菜、細かく千切った干し肉を更に煮込んだ一品。戦場であれば至高の一品だ。


「やだ若様、また何か考え込みながら食べてるわ。」


「若様というより御隠居様の食事風景ね。」


 …好き勝手良いおるわい。


 食事が終われば着替えだ。2歳児とはいえこの家の嫡男。どこに出しても恥ずかしくない格好に変えられる。


 昔、儂もセシルの子供服の費用を捻出するために頭を抱えに抱えて、家令に「領内の運営よりも真剣ですな」と嫌味を言われたものだ。


 特に今日は客を迎える日だ。儂を老人扱いする使用人達もどこか緊張しておる。


「おぉ、セシル!その格好も素敵だなぁ、さすが我が息子!」


 前世の儂、現ダリウスがぶよぶよの頬をこすりつけてくるが、儂は片手で食い止める。


あぁ、手についた脂の感触が…、戦場で敵兵の血脂を山ほど浴びても何とも思わなかったが、この手についた脂だけは不愉快だ。


「旦那様、マイユ卿が御見えです。」


「ぬ、もうそんな時刻か、出迎えの準備を!」


 …お出でなすったか、かつての我が右腕にしてセシルを殺した…、容疑者第一候補、イシヅ・マイユ!


 彼奴は元々儂の友人にしてかつての妻、つまり今の儂の母レミの元婚約者だった。相思相愛の仲だったらしいが、儂の父とレミの父が意気投合し、子達の意見も聞かずに仲を引き裂いてくっつけた。


 レミの父は伯爵家、儂の父は子爵家と身分に差があったが、伯爵家は婚姻を強行した。

今でも初めて儂と顔を合わせた際の、レミの蔑むような顔は忘れない。


 セシルが死んだ後、儂が戦場に出ずっぱりということもあって、いつの間にか実家に帰ってしまい、その後も顔を見る事は無かった。その詫びのつもりか、伯爵は王国内で孤立していった儂を随分と補助してくれたがな。


 イシヅは儂が戦場へ出ている間、我が領内の運営代行や伯爵からの援助物資の供給等と粉骨砕身の働きをしてくれた正に右腕である。


 晩年一緒に飲んだ際に尋ねたことがある。レミを寝取ってしまった儂に恨みは無いのかとな…。


『実をいうと少しは恨んださ。私は彼女を愛していたからね。だが君等の婚約は親同士が決めたこと、なにより君の不本意そうな顔と、実は君も恋人と別れさせられたという噂を聞いたらそんな気持ちも霧散してしまったよ』


 当時儂は領内騎士の娘、レーゼと好きあっていた。所詮子爵家ならそのまま結ばれていただろう。父たちの思いで打ち砕かれたがな。そういえば今のこの世界でレーゼは何をしているのだろう。前の世界では儂と別れた数年後にはどこぞに嫁いだらしいが…。


「やぁダリウス、そちらが君とレミとの子かい?」


「よく来てくれたイシヅ。うむ、この子こそ我がペルシー家嫡男、セシルだ。私に似て利発そうな子だろう?」


「…ダリウス、私には灰汁を飲まされた猿か、老人のように見えるんだがね」


 この可愛らしいセシルの顔を、貴様までそう言うかイシヅ!?


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