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直実の説法

 成木家が預かる入間という土地は後背に大山を抱え、そこから流れる川を中心に作られた地味の良い肥沃な土地である。さらに大山の山裾は入間を囲うかのように入間の右側面、東側にも伸びている。

 そしてその反対、左側面は向こう八里にも及ぶ広大な森が広がっている。

 それゆえ、入間へ入る道は北の街道のみであり、天然の要害と化した土地である。


 一方で、そんな入間にも問題はある。

 それが山や森に棲む先住の民達である。西の森にはヤンヒ、南の大山にはオルヌイと呼ばれる先住民族たちがいる。それらは異なる文化、異なる言葉を話し、意思の疎通ですら儘ならない。そのうえ、肥沃な入間の地を手に入れようと、虎視眈々と狙っているという。


 ヤンヒ討伐の道すがら、直実に話を聞くとそんな答えが返って来た。いやはや、下手をしたら四面楚歌もいいところじゃないだろうか。そんなことを思ってしまった。


「それでも我らはまだいい方でしょう。西も南も抑えることができていますから。酷いところだと先住民に敗れて一族郎党食い物にされたとかされないとか」


 涼しい顔をして直実が言う。


「いや、どっちなんだよ」

「少なくとも首から上は食べられていないみたいですよ。街道にさらされていたって話ですから」

「ああ、そう」


 何だかな。こいつはその話をして何をしたいんだろうか。俺をビビらせたいのか、それとも暗に危険を知らせているのか。

 何れにせよ、気は引き締めておこう。緩めたつもりはないが、俺のことだから緩まっているやもしれん。


 道中は割と急ぎ足であった。歩兵や槍兵を置いて騎兵だけでもと思ったが、直実に止められた。騎兵20騎が先に出て行ったところでどうしようもないらしい。

 そんな悠長なことを言って大丈夫なのかと問うと、「ある程度の守備隊は村にだってあります。恐らく我々が到着するまでは持つでしょう」だと言う。

 そんなもんなんだろうか。まあ、そんなもんなんだろう。素人が口を出したところで良いことはない。俺は黙って馬を進めた。


 しばらく行くと、目的地であり現在にヤンヒに襲われているという村落が見えてきた。確か名を額田村ぬかたむらといった。


「止まれ!」


 村落を目前にして直実が声を上げた。200の兵が一斉に立ち止まった。なかなかに壮観であった。


「雪次!」


 直実が誰かの名を呼んだ。すると、歩兵の中から声が聞こえ、男が一人現れた。直実の部下であろうか。直実とは正反対の、無精ひげを生やした粗野な印象を与える男であった。


「額田村の様子を探って参れ。まだヤンヒに踏み込まれていなければ誰か連れてきなさい。話を聞きます」

「はっ」


 直実の言葉に雪次という男は頭を下げると、駆け足で村落へと向かった。これは本来俺の役目なのだろうなと思いつつ、俺はその背中を見送った。


「とりあえず、雪次を待ちましょう。それまでここで休憩をとります」


 直実がそう言ってこちらを見た。特に文句はない。俺は頷いた。

 俺が頷いたのを見て、直実は近くにいた騎兵の一人に何事か話しかけた。まあ、大方「休憩しろ」とか何とかだろう。話しかけられた騎兵は直実に頷くと、馬を降りて兵が待機している場所へと駆けて行った。直実が他の騎兵に指示を出す。すると、指示を出された騎兵は周りへと散開していく。あれは何だろうかと直実を見ると、俺の目線に気が付いたのか馬を寄せてきた。


「いかがされましたか?」


 目線には気付いたが俺の尋ねたい事には気付かなかったらしい。まあ気付いたら気付いたでその以心伝心具合に目を叛けたくなるかもしれないが。


「いや、今周囲に散っていった騎兵は何かと思ってな」


 俺が言うと、直実は少し思案するような素振りを見せた後微笑んで言った。


「さて、何でしょうね。正次様は何だと思いますか?」


 まあ、この程度で苛立ちなどしない。仮想現実におけるこの体はまだ20歳かもしれないが、中身は50目前のオッサンなんだ。別にまだ30そこらに見える小僧が粋がったところで苛立ちやしないさ。


「まあ、考えられるのは偵察……いや、哨戒か。とはいえ、比較的開けたこの地形で意味があるのかどうか」


 俺が腕を組んで考え込むように呟くと、直実が頷いた。どうやら正解であったらしい。


「ええ、さすが正次様です」


 馬鹿にされているのだろうか。


「先程送り出した騎兵には周囲の警戒をしてもらっています。確かに開けた地形ではありますが、背の高い草や、山裾の岩場など隠れることが出来る場所は少なくありません」


 そう言って直実が左手を指す。なるほど、確かに岩場があった。距離があるせいかよく分からないが、むしろだからこそ警戒する必要があると言いたいのだろう。しかし、目算500メートル。もう少しあるかもしれない。何れにせよ、この距離があれば奇襲にならないのではないだろうか。


 そのことを直実に尋ねてみると、飽きれたように溜息をつかれた。


「いいですか、この度の相手は西の野蛮人ヤンヒです。聞いた話によると何もないところから火を放つとも言います。その射程がどのくらいかご存知ですか?」


 俺は首を振った。何もないところから火を放つのは聞いたが、その射程など聞いた覚えがない。ヤンヒの話を聞いたのは確か小姓からであった。あの小姓であれば射程についても知っていたかもしれない。聞いておけばよかったな。

 今更ながらに考えても、ことここに至ってはどうしようもない。直実の方を見ると、冷たい笑顔を浮かべていた。何だろうな。笑顔も冷たくなるんだな。そんなことを思った。


「その通り、分からないのです。射程がいくらなのか。被害は広範囲に及ぶのか及ばないのか。だからこそ最悪の場合を考慮するのです。」


 直実の意見は最もだ。何も分からないのだから最悪の場合を想定に入れて物事を考える。真に正しい意見である。備えあれば憂いなし。備えすぎても問題はないだろう。

 とはいえ、言いたいことがないわけでもない。


 例えば、自らの備えを過信しすぎると痛い目を見るぞだとか。自分の備えを相手に利用される可能性を考えとけよだとか。

 しかし、止しておこう。言ったところで現状、これ以上の備えをしようがない。備えの裏をかかれるかもしれないだとかは俺が注意していればいいだろうよ。あるいは、直実も言わずとも理解しているかもしれない。


 俺が黙っていると、何を思ったのか直実が大きく溜息を吐いた。一応、俺こいつの上司だよな?


「どうしたんだ?」


 直実に尋ねてみる。どうせ、俺が理解できていないとでも思っているのだろう。


「いえ、成木の人間は危機意識が低いなと思いまして」


 なんだ、愚痴か。


「いいんじゃねえか?別に。お前がしっかりしていればいい話だろうに」


 そんなことを言いながらも、他力本願もいいところだなと思ってしまった。口には出さないが、直実の顔を窺ってみる。案の定、飽きれたような表情をしていた。


「上に立つ人間は万全を期す必要があるのですよ。正次様、覚えておいてください。上に立つということは戦にかかわらず、すべてにおいて万全を期して、万難を排して臨むことを義務付けられていると私は思うのです。もちろん、すべてがすべて思うままにいく訳ではありません。しかしながら、思うままにならぬからと言って、思うままにしようとする努力まで怠ってはなりません」


 飽きれた表情をがらりと変えて、直実は俺に教え諭すように言葉を繋いだ。


「上に立つ以上、家臣に、兵に、万民に、最善を尽くす義務が付きまとうのです。このことをお忘れなさいませぬよう」


 そう言って直実が頭を下げる。直実による上に立つ者の義務に関する説法が終わった。拍手でもすればいいのだろうか。俺はとりあえず鷹揚に頷いた。


 何と言っただろうか。ノブレス・オブリージュ?まあ、言いたいことは分かる。面倒だとは思うが、確かに上に立ち命を預かる以上、そこに責任やら義務やらが付きまとってしまうのは仕方がない。


 しかし、まあ、何だ。ゲームだよな?これ。何で俺はゲームのキャラに教え諭されているのだろうか。あるいはこの男、まさかのプレイヤーかもしれん。だとしたら、今の説法は俺に対する嫉みや僻みの類になるのだろうか。


 直実をじっと見つめてみるが、プレーヤーかどうかの判別がつかない。まあ、プレイヤーである可能性は小さいだろう。ゲームで説教をかますプレイヤーなどそうそういるまいて。


 そうこうしているうちに、哨戒に出した騎馬が戻り、それから程なくして偵察に行かせた雪次とやらが帰って来た。


「報告いたします」


 雪次が俺と直実の前に跪いて言う。


「敵はすでに防護柵の三層目に差し掛かっており、さらには、敵の別動隊が後背を突こうと本体から分離し始めたようで、村が崩れるのも時間の問題かと」


 大方、思った以上に攻めあぐねて、慌てて軍を二手に分けたということか。思った以上に相手はお粗末だな。

 雪次の報告から相手の様子を推察しながら、直実を見る。俺なら、騎馬で敵本隊の後背を突いて、他は別動隊ぶ当たらせるのと村の守備に向かわせるのとに分けるが、直実はどうするつもりだろうか。


 直実は少し思案する素振りを見せた後、雪次に尋ねた。


「相手の数は?」

「本体が80に、別動隊が20です」

「村の守備隊はどのくらいだ?」

「30といったところです」

「ふむ」


 また少し思案する素振りを見せた後、直実は大声を張り上げた。


「全軍通達!騎兵は別動隊として敵別動隊を足止め、我ら本隊が村に入るまで足止めせよ。我ら本隊が村に入ったら騎兵は戦闘を離脱し、そのまま敵本隊の後背を突け!本隊は歩兵を前に、その後ろに弓兵、最後尾には槍兵を置く。村に入ったら別動隊は槍兵が迎え撃て。本隊に対しては歩兵で敵を抑えつつ弓兵で攻め立てる!」


 どうやら俺の考えたのとは少し違うらしい。騎兵で時間を稼ぎつつ守備を固めようという腹づもりだろうか。


「全軍進め!」


 直実の掛け声で再び200の軍が動き出した。指示通り騎兵は先行して敵別働隊を攪乱しに向かった。弓兵と槍兵に挟まれながら進んでいると、直実がこちらに近づいてきた。


「正次様、村に入りましたら本体の指揮をお願いいたします。私は別動隊を迎え撃つため槍兵の指揮を執ります」

「はい?」


 今何と?


「何かありましたら雪次を頼ってください。彼ならばうまくやるでしょう。相手の本体が引けば自ずと別動隊は引くはずです」


 いや、まあ、そうだろうけどさ。そうじゃなくてだな。俺が指揮を執る?できるわけがないだろうに。


「他に指揮を執れそうなやつはいないのか」


 直実に尋ねる。格好悪いな、俺。言ってて思った。


「正次様しかおりません」


 直実は俺の目を見てきっぱりと言い切った。

 何だかな。雪次とかいるだろうにとも思うが、それでも直実は俺に指揮を執れって言うんだろうな。まあ、こう言っちゃあ何だが、所詮ゲームだ。死ぬわけじゃあない。やれるだけやってみるのも悪くないかもしれない。

 俺は直実の目を見て頷いた。

テキトーテキトー超テキトー。

あ、割とガチで設定がテキトーなんで。後、戦術とかも無知蒙昧を晒してるんで。

それを分かっていながらも直す努力をしないってのは、つまりは糞野郎なんだろうな。

うん。糞野郎を自負しようか。

誰か!何か気づいたら教えてけれ!

とりあえずそんなとこ。

読んでくれてありがとう。また次回。

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