第八十七話 平和
笛吹峠で将軍を失った足利軍はもはや烏合の衆だった。
各地域で小規模な反乱は起こったがそれは今上帝の手によって鎮圧された。
皆新しい天皇に従い新しい時代を作っている。
そして俺はというと今上帝が言っていた報奨は辞退することにした。
本来なら上野国や越後、越前、鎌倉の政治をしなければならないのだがそれは義宗や義治たちに任せることに。
そして残念なこともあった。勇猛な戦士たちがその一生を終えるのであった。
楠木正成や新田義貞は高齢ということもあり戦いから間もなくして息を引き取った。
彼らは菩提寺にて葬られ時々俺たちも顔をだしている。
新田義貞の墓は今で言う茨城県の籠ヶ崎市に作られた菩提寺にあり俺は墓参りに行く。
「新田義貞さま俺は運命を変えることはできたんですかね」
俺がした歴史改編は果たしてよい結果となったのだろうか。
墓はきれいに掃除がされていて寺の人が丁寧に扱ってくれているのがわかる。
「きっと変えることができましたよ」
喜助がそばに控えて俺の言葉に答えてくれる。
「それにしても長い時間世話になったな」
武蔵国の弥次郎さん一家も代替わりが行われ今では次郎丸がしきっている。
俺は戦が終わるともといた弥次郎さん宅にお世話になることにした。
なにより政治は今上帝に任せた方がいいし、若い衆に仕事は任せるに限る。
そのくらい俺にだってわかる。
だからこうしてのんびりふらふらと歩きながら農民の耕作地に立ち寄って仕事を手伝ったりしているのだ。
そうそう。大陸から金属を集めて鉄製の農具を売りさばいたり時折思い出したように石火矢の作り方を教えたりしている。
「喜助ひとつ不思議な話をしてもいいか」
「なんでしょう」
「実は俺未来からやって来た人間なんだ」
「それは承知していますよ」
喜助は驚いたようすもなく静かにうなずいた。
「だってあなたの知識はこの時代のものを凌駕する技術で一杯でしたから」
そしてなによりと彼は付け足す。
「私はあなたをこの世界につれてきた人物を知っております」
どういうことだろう。
「あなたは武蔵国でさ迷っていました」
それを見つけたのが私ですと喜助は答えた。
「世界には歴史の流れがあると共にそこにはねじれが存在します」
俺は最初分倍河原駅で牛車を運転する男にであった。
それが喜助だというのか。
「じゃあ俺はどうやったら元の世界に戻れるんだ」
「あなたのなされたことなら十分です」
もう帰りましょうと喜助は寂しそうに笑った。
「では私が運転する牛車に乗ってください」
「これで本当にお別れなんだな」
「はいそうです」
新田義貞の墓をあとにして俺は喜助の用意した牛車に乗る。
これですべてが終わる。
牛車に乗っているうちに意識が遠退いていく。
そして。
目を開ければそこは分倍河原の駅だった。
俺は水干を身に付けているせいか周囲の人が怪訝な目をする。
だがそんなことより気になるのは。
馬にまたがっている新田義貞の像だ。
ああ俺は彼と同じ時代を生きていたのだと実感する。
「ありがとうな喜助。俺をあの時代に連れてきてくれて」
こうして物語は終わる。
「ただいま親父」
実家に戻れば親父が焼酎片手に酔っていた。
「俺だよ。帰ってきたよ」
そういうや否や親父に抱き締められた。
男どうしでこれはすこし気恥ずかしいが同時に面映ゆい感覚を覚えた。
「良く帰ってきくれた……」
親父は目に涙を浮かべていた。
「ただいま」
今度親父に話してやろう。俺が生きてきた時代と言うものを。




