第七十六話 青野ヶ原の戦い
かくして足利義詮の軍に打ち勝った俺たち一同であった。
「新田義興、話がある」
「私たちは京に戻って帝のお言葉を受けようと考えている」
つまり鎌倉をたつということだ。彼を一人にするのはいささか心配だったけど北条時行もいる。
いざとなれば彼から何かしらの連絡がくるだろう。
ということで俺は久しぶりに武蔵の国の弥次郎さん七人一家にお邪魔していた。
「九郎丸お主も立派になって」
「いえ弥次郎さんのお陰ですよ」
久しぶりにあった弥次郎さん一家は元気そうだった。戦があったからか少しは大変そうにしていたがそれでも変わらない。合理的な男で一家を支える弥次郎さんに立派な大人になると俺に語った次郎丸。馬小屋で俺と苦楽をともにした馬飼いさんも俺を歓迎してくれていた。
「私たちも戦に駆り出されたが鋳物で一儲けできたからな」
どうやら戦の時に武器を鋳造して一旗揚げたらしい。さすが転んでもただでは起きない男だ。
「九郎丸も色々あったと思うがこうして再び会えたことには御仏の導きだな」
弥次郎さんは俺と馬飼いさんが開発した桃のゼリーをお茶菓子に出してくれた。
「この菓子もお主のお陰で儲けることができた」
「いえ」
感慨深そうな顔をして話を続ける。
「この武蔵の国は分倍河原でも戦があった。それだけじゃない」
「私たちは北条高時さまと親しい関係だったが彼が亡くなってから激動の日々だった」
それもそのはずだろう。権力のあり方が変わったのだ。
「我々は九郎丸との繋がりで生き延びたようなものだ」
「お主には感謝してもし足りない」
彼の身の上を考えれば苦労したはずだ。だがそれでも生きていてくれた。
それが心から嬉しかった。
弥次郎さんとの会話もそこそこに馬小屋に移動する。
「久しぶりだな馬飼いさん」
「久しぶりだ」
相変わらずの無愛想だったが彼の様子から俺を嫌ってのことではないとわかる。
「どうだった?」
「どう、と聞かれても」
俺は相変わらずだと馬飼いさんは答えてくれた。
「俺たちが開発した菓子のお陰で俺の待遇も大分よくなった」
今では座敷に上がってもよくなったのだと伝えてくれた。
「そうか。それはよかったな」
「そういえば馬飼いさん俺に手紙くれたよな」
「ありがとうな」
「いや……別に」
「だけど勉強してくれたんだろ」
そうだなと馬飼いさんは静かにうなずく。
あのとき受け取った手紙はまだ俺の手元に残っている。
紙が貴重な時代に手紙を送ってくれたことがありがたかった。
「新田義興様」
喜助が俺を呼び出す。
「美濃の青野ヶ原で北畠顕家軍が足利の残党と戦っているようです」
「どういうことだ」
「京に向かう途中を足利軍が狙っていたようです」
つまり俺たちが助けにいかなければならないのだ。
「しかし北畠顕家殿は新田の援軍を拒んでおいでのようです」
「参ったな」
はいとしょんぼりする喜助だった。しかしどうしたものか。俺は頭を抱えた。
美濃の国の青野ヶ原と言えば現在の岐阜県大垣市にある場所だ。
大垣と言えば十五の一級河川が流れていることで有名だ。
それに地下水も多くわき出ており水の都とも称される。
「よし様子を見に行くとするか」
弥次郎さん一家との邂逅も終わりを告げ再び俺たちは戦場へと身を投じるのであった。




