第七十一話 籠城2
俺は喜助について行くことにした。本来指令を出す人間は移動しないことが鉄則だけど今回の戦の司令官は新田義貞だし大まかな作戦は伝えていたので俺は忍び攻めに協力することになった。
「新田義興様こちらです」
声を潜めて喜助が声を掛けてくる。どうやら敵が近くにいるようだった。
今回の忍び攻めだが敵の食料や武器に火をつけていくのが主な目的だった。
ということでいざ燃やしにいこうではないか。
「しかし新田軍や大塔宮の軍にはやられたな」
「こんなに寒いのに戦となれば皆一苦労だ」
足利の残党だろうか。それぞれが苦労を労っている。
かがり火が点るなか寒そうに身を震わせている。
「喜助、いくぞ」
米俵を見つけそれに火を放つ。
「うわあ食糧に火がついてしまったっ」
足利の残党はキョロキョロと辺りを見渡しているすきに逃げ出す。
「ふうひとまず一ヶ所は完了したな喜助」
「そうですね」
俺たちはうなずきあった。次の目標は斯波高経の軍勢だ。
夜の闇のなかを二人で進む。
「新田軍は二重の壁で私たちの軍を迎撃しているようだ」
「そいつは困ったな」
「しかも火攻めまでしてきたそうだ」
見張りは数人。食料の管理を任されているものたちは暇なのか小声で会話をしている。
この人数だとばれる心配はなさそうだ。俺たちはこっそり備蓄庫に入り火を放つ。
「何奴」
まずい。敵に見つかったようだ。
「喜助、どうしようか」
「ここは私に任せてください」
喜助は懐から火薬を取り出す。
「火遁の術っ」
ドンッと低く響く音の後に煙幕が立ち込める。
「なんだこれはっ」
「くそっ。煙でなにも見えない」
敵は視界を奪われて身動きがとれない。その隙に。
「こちらです」
俺は喜助に手を引かれ別の場所に移動した。
それから俺たちは斯波軍の食料庫を見つけると次々と火を放っていた。
「ここが最後かな」
ついに斯波高経の軍の本陣を狙う。
「今回のはすごく大きいな」
さすが本陣というだけあって食料がたんまりある。
なのでなかなか火がつかない。
火がついたとしても思ったよりも小さな炎で近くに燃え移らない。
「まずいですね」
喜助が困ったような声で呟く。
たしかにまずい。時間だけが徒にすぎていく。
「ここは油を使いましょう」
喜助が竹筒から油をとりだし米俵にかけていく。
「これで終わりかな」
見つからなかったことにホッと胸を撫で下ろしそそくさと出ていく。
とそのときだった。
「何をしているんだ」
男の低い声がする。振りかえるとそこには大量の斯波軍がいて俺たちを囲んでいた。
「まさか」
まずい。このままでは逃げられない。俺が困っているのを男はおかしそうに笑う。
「まさかもなにも見ての通りだ」
せめて喜助だけでも逃がせないかと俺は様子をうかがう。
「逃げ場はないぞ。なにせこれだけの人数で囲んでいるからな」
男は刀を引き抜き俺の喉元に差し向けた。
「しかし警護を強化して正解だった。この二人で食料庫を燃やしつくされてはかなわないからな」
「それは残念なことだ」
俺がぼそりとこぼすと男は再び低く笑う。
「今日はやたらと火事が多いと聞いてな。犯人がこんなに間抜けだとは思いもしなかったが」
「それはお互い様だろ」
そういい放つと男のこめかみがひくつくのが目に入った。
「お前らには散々煮え湯を飲まされてきたからな。そう簡単には殺しはしないさ」
「じゃあ拷問でもするのか」
「それは考えているところだ」
「ずいぶんと悠長に構えているんだな」
俺が軽口を叩くと再び眉間にシワが寄る。
「お前には死ぬほど苦しい思いをさせてやるさ」
くっくと笑う姿は鬼のようだった。
「それは楽しみだ」
「首を長くして待っていろ」
そう簡単には始末しないさと笑う。どうやらこの辺りで勝負を掛けたほうが良さそうだ。兵士たちは俺たちの会話に退屈しているようだったし一瞬の隙をついて石ころを男にぶつける。
「ぐっ悪あがきを」
(今だ。喜助)
そう合図を送るや否や煙幕が立ち込める。
「義興様すぐに助けを呼びますからっ」
「ああ待ってる」
かくして喜助は山のほうへ去っていったのであった。




