第六十六話 夢
夢の中では親父が俺を待っていた。
「あいつはどこにいったんだか」
安い焼酎をグラスに開けてちびちびと飲んでいる。昔から貧乏性なのだ。
「帰ってこなくなってから今日で半年か」
遅れてきた反抗期かとひとり笑っていた。
「しかしここまで来ると笑えないな」
ぽつりと親父は呟く。その姿がどこか寂しそうで俺は胸が締め付けられる思いがした。
「親父、俺はここだよ」
思いきって声をかけてみる。だがその声は彼には届かず実家のなかをむなしく響き渡るだけだった。
(そうだ俺は鎌倉時代末期にタイムスリップしたんだったっけ)
東京のとある駅で牛車に乗ってやってきたのだから戻る方法だってあるはずだ。
現に今俺は実家に戻っている。だが親父は気づく気配がない。
しかたなくその辺のメモ帳に伝言を書き連ねることにした。
『親父へ。俺は今離れたところにいますがひとまず無事です。あと少しやることが残っているのでそれまで待っていてください』
新田義貞とのあれこれは書かないで無難にまとめておいた。これでひとまず安心だろう。
他にやることがないかと部屋を眺めていると視界が急に歪み始めた。
(なんだこれ)
そのまま意識は闇のそこへと落ちていった。
目が覚めるとそこは元いた多々良浜のそばの民家だった。喜助が心配そうにこちらの様子をうかがっている。
「目が覚めましたか」
「おお、なんだかわからないけどサンキュな」
「さんきゅ……?ともかく無事で何よりです」
よく見れば俺の肩には手当てが施されていたし敵はいなくなっていた。
「何が起こったんだ」
「戦に勝ったのですよ」
敵の数はこちらに比べれば少なく一掃できたという。
「足利高氏は」
「亡くなりました」
その言葉に苦い感情がこみあげてきたが努めて冷静に振る舞うことにした。
「そうか。最後はどうだったんだ」
「義興さまが一撃をいれたあとその後弓矢で」
「首級は帝に献上するようです」
「……そうか」
「戦では何があるかわかりません。彼もそれを承知の上で戦に出たのでしょう」
敵ながら最期は武士らしく終えることができたのでしょうと喜助は付け足した。
「喜助も俺に付き合ってくれてありがとう」
「いえ」
そして現状を聞くことにした。
「現在新田と菊池軍は大宰府で待機しています。これから政治も刷新する予定だそうです」
「それが終われば九州はひとまず平穏が訪れるでしょう」
足利の残党を倒していけばひとまず平和になるだろうというのが喜助の考えだった。
「じゃあ次は四国と中国を平定しないとな」
「それと越前も」
新田の配下にある越後と違い越前は足利方が多くいた。
「まずは大宰府ですね」
かくして遅ればせながらではあるが俺も大宰府に向かうのであった。




