第六十一話 楠木正成
翌日の未明俺たちは作戦通り京都を包囲した。
「皆のもの火を放て」
楠木正成が指示を出す。それにならって兵士たちは京の街に火を放つ。
京は火の海だった。
「楠木正成殿」
「どうした新田義興」
俺が声をかけるとこちらをじっとうかがっている。
楠木正成はまさに悪党と呼ぶべき男だと俺は思った。
別に人柄が悪いとかそういう意味ではない。
元弘の乱で後醍醐天皇とともに挙兵し、その後醍醐天皇が流罪になったあとも赤坂城の戦いで敗れたものの吉野にて大塔宮と奮戦。ゲリラ戦術で千早城に立てこもったのも記憶に新しい。
彼は生まれ持った策略家なのだ。現に今京に火をかけるのだって楠木正成がいなければ生まれなかった作戦だ。
「このあとの作戦はありますか」
「ああ」
俺の言葉に自信げにうなずく楠木正成。
「京を囲いこんで火をつけた後足利高氏の首を狙う」
「あやつがいなければここまでの大戦にはならなかっただろうしな」
俺たちは大渡・山崎の合戦で敗北した後拠点を比叡山に移さざるを得なかった。
その後も戦に次ぐ戦。兵士たちも疲弊していた。
だが今回こそはと兵士たちの士気も高い。
「俺が新田義貞と足利高氏を探し出します。楠木正成殿はここで兵士たちに指示を出していてください」
その言葉とともに俺は近くにいた新田義貞に声をかけた。
「いいですよね」
「ああ。任せろ」
新田義貞はそううなずくと俺とともに京の中を馬で走り抜ける。
「行くぞ義興」
目の前には足利方の兵士がいる。それを。
斬
太刀でなぎ払い俺たちは先に進む。
「火が強くなってきたな」
次第に火の勢いが強まっていく。その間を掻い潜りながら足利高氏捜索は続く。
「皆のもの、行けっ」
足利軍は混乱しきっていた。まさか京に放火するとは思いもしなかったのだろう。
だから司令官が指示を出しても兵士たちは右往左往するばかりで攻撃を仕掛ける余裕もない。
だが時おり精鋭が俺たちに刀で攻撃を仕掛けてきた。
「ふんっ」
それを自分の鬼丸で弾き返す。すると敵はもう一度俺を狙ってくるが。
「いけっ」
鬼丸を一振りすると敵を潰すことに成功した。
探すこと一刻。次第に敵の全貌が見えてきた。
敵の陣形は方円。つまり円を書くような形で陣を張っている。
ということは。
円の中心に足利高氏がいるはずだ。
「新田義貞様。足利高氏はこの円の内部にいるはずです」
「やはりそうだったか」
新田義貞も俺と同意見だった。
「行くか」
「はっ」
俺たちは方円の内部へと急ぐ。
そしてその中心には。
あの足利高氏が待ち受けていたのだ。
「かのもの足利高氏と見受けられるが」
「一騎討ちを願い出る。いかがだろうか」
「……生憎だがその申し出には応えられない」
足利高氏は馬に乗ってその場から離れようとしていた。
「待てっ」
新田義貞が足利高氏を追う。だが相手が悪かった。
敵の馬は駿馬のようだった。
「俺がいきます」
鬼丸を片手に馬で駆け寄る。
斬
「ぐっ」
足利高氏が呻き声を漏らす。これはいけるんじゃないか。
「もう一回っ」
「くそっ」
だが今回は避けられてしまった。そして気がつけば。
足利高氏は遥か彼方へと逃げ去ってしまったのだった。
楠木正成にそれを報告すると。
「日没が近い。今日は引き上げるぞ」
「ですが足利高氏は逃げてしまいますよ」
「人馬の休息が必要だ。それに日が暮れたら移動も困難になる」
そうした理由で俺たちは東阪本まで戻ることとなった。




