第五話 境内にて
紹介状を握りしめて歩くこと半日。俺は近くのお寺にお参りをしていた。
しかし見ると案外女性も多いんだね。笠を被っている子もちらほら。やっぱり女の子同士数人で楽しそうにお参りしている。
今日は市が小規模ながらもやっていた。
そこではお米やお豆を売っていたり、綺麗なお花だったり、目を引くものが多いね。
しかも売っているのも女性か意外と多い。
みんな商売上手だな。俺も気がつけば大量の小物と小さな鉢植えを買ってしまった。お金は弥次郎さんからもらった一貫(一貫は1000文、全部で約五万円)から出したのでお財布の中身は少し寂しい。
でも鉢植えもずっと持ち歩いているわけにもいかないし、困ったな。
「そこのお嬢さん」
「なにかしら」
ぱっと見地味な小袖に頭に白い布切れを頭に巻いた年若い少女に話しかける。というか売り子さんは大体頭に布巻いているんだけど。この娘の意思の強そうな瞳が気に入ったので。
「この鉢植えもらってくれない」
「どういうこと?」
眉を寄せてうろんげな目で睨みあげられる。うん。ちょっと怖いかな。
仕方がない。具体性に乏しい説明はダメだよね。ということで戦法を変える。
「あっ俺さっききれいだから鉢植え買っちゃって、君にもらってほしいんだ」
「嫌よ」
たしかに唐突すぎたかもしれない。なのでもうちょっと頑張る。
「頼むから、君も綺麗な娘さんだからいいなっと思ったし」
「まあっ……」
少女の頬が朱に染まる。おおなかなか好感触じゃないか。ならもう一押し。
戦法ただ同じことを繰り返すだ。俺の親父がいつもやってくるやつ。大体あいつはバカの一つ覚えみたいにど阿呆と怒鳴るんだけど、俺は奴とは違って頭がいいのだ。えっへん。
「この花みたいに君はきれいだよ」
「私そんなんじゃないわ」
なにかコンプレックスでもあるのかな。少女の表情が曇る。
「そんなことはない、君は美しい」
「……でも」
オスカー俳優とかしか許されない台詞を鎌倉末期に言う男。みんなはどう思う。
俺っ?内心冷や汗かきまくりでしたよ。だってこれでドン引きされたら立ち直れないよ。だからこのノリを続けてしまったんだけど。
「だから俺のこれをもらってほしいんだ」
「私にはまだ早いわ」
「時期なんて関係あるのかな」
自分でも言っていること意味不明だけど、まあいっか。
「だから受け入れてくれ(鉢植えさんを)」
「やめてこのド変態っ」
気がつけばビンタされていた。どうやら俺の親切ってただのセクハラ扱いになっていたみたいだ。
なんでだろうと振り返るとたしかにまあそうなるよね。時代背景的に。
親父の忠告ちゃんと聞いておけばよかった。
中世ではお寺のお籠りにはちょっと大人の意味があるのだと。
うわーん悲しいよ!でも結局あとで冷静になって説明したらちゃんと受け取ってくれた。優しい女の子だな。
ということで一日優雅にお寺にお参りでしたとさ。
ネット情報と網野善彦先生の書籍を参考にしました。なので結構怪しいです。