第五十三話
北条時行が敗北を認めたことで敵軍は降伏することになった。
「私の敗けだ新田義興」
血まみれになった俺の手を握る。そして小さく笑う。
「お前の執念には負けだよ」
「俺も北条時行殿には負けるかと思いましたよ」
お互い顔を見合わせて笑い会う。
北条時行は成良親王とも言葉を交わす。
「成良親王もよき部下に恵まれたものだ」
「最後の車輪のような陣形も生まれて初めて見た」
「あれも成良親王の作戦か」
「いえあれも義興の考えた戦術じゃ」
いけない。あれは未来のものだった。俺は歴史を変えてしまったということか。
だがそのお陰で北条時行軍を止めることができた。
ということは歴史が変わる瞬間を俺は見届けたことになる。
北条時行が俺に尋ねてくる。
「さて新田義興私はこれからどうなるんだ」
「身柄を拘束させていただき京へと連れていかせてもらいます」
時行は驚いた様子だった。それも当然だろう。なにより敵軍の将であるから首級を天皇に差し上げるのが自然だからだ。
「ここで殺さないのか」
「いえ判断は後醍醐天皇に任せたいと思います」
北条高時の遺児を殺すような真似はどうしてかしたくなかった。
それが人として正しいとかどうとか関係なく。
親父がいたら俺がしたこと、なんていうんだろうな。
久しぶりにもとの世界にいる親父のことを思い出した。
あの偉そうで歴史オタク、それもかなり偏りのある偏屈な親父は俺がニートだったときも普通に接してくれた。それがありがたいようなこそばゆいようなそんな感覚だった。
だが離れてみると不思議なもので人恋しくなるのかたまに会いたくなる。
もちろん今だって新田義貞や弥次郎さんに領民のみんながいる。みんなで協力してこの戦乱を乗り越えようとしている。
(親父に会うのは全てが解決してからだな)
まだどうやって戻るのかわからないけれども。一人心に誓うのだった。
歴史改変が進んでいるということはこれから先の歴史も史実と異なる展開を見せることだ。
例えば足利直義。
彼は本来ならば成良親王を連れて鎌倉まで後退、最後は京へと脱出するはずだった。
だがこの世界では足利直義は成良親王をおいて鎌倉に逃げてしまった。
また彼は京に戻って足利高氏の援軍を呼ぶ予定だったが、歴史上では足利高氏が征夷将軍の肩書きと関東八か国の管理・支配権を朝廷に要求することになっていた。
でもなにか大切なことを忘れていた気がする。
なんだろう。
数秒間考え答えが出てきた。
大塔宮だ。
たしか太平記には足利直義が鎌倉を脱出するときに部下の淵辺義博に大塔宮を殺すよう指示したという。
それがあのときの口論かと思い出す。足利直義が部下ともめていた時。あのときの部下が淵辺義博ということになる。そして大塔宮が幽閉されているのは……。
思い出した。たしか東光寺だという。
急がないと。大塔宮の命が危ない。
俺は自分の肩に視線をやる。今は血が溢れているが手当てをすればどうにかなるだろう。
そこまで深い傷ではなかった。
「成良親王、新田義貞様お話があります」
「どうした義興」
怪我の手当てを受けながら俺は今しがた出した結論をのべる。
「今から鎌倉に上って東光寺に参ろうと思っているのです」
「どうして」
「大塔宮が危ないのです」
「足利直義が大塔宮の暗殺を指示していたところを偶然耳にしまして」
「たしか鎌倉に幽閉されているときいたが」
「ええ」
「場所はわかるのか」
「東光寺です」
「わしの部下をつれていくといい」
新田義貞が顎を引くと一人の男が姿を表す。
「名を喜助という」
「よろしく頼む」
かくして俺は喜助とともに鎌倉へと上るのであった。




