第五十二話
新田軍が応援にやってきたのはそれからまもなくしてだった。
「待たせたな義興」
久しぶりの新田義貞の姿に俺は安堵した。
「義貞さま」
いつもと変わらない自信満々な姿も力強い剣捌きも頼もしさを感じる。
「どうした泣きそうな顔をして。北条時行軍相手にやられそうになって怖じ気づいたわけではあるまい」
「そんな情けない顔はしてないと思いますが」
「冗談だ」
新田義貞が軽く笑う。俺もつられて頬を緩めた。
と成良親王が咳払いをする。
「親子の再会を邪魔して悪いがこの後の作戦はあるのじゃろうか」
「もちろんです」
「今俺たちは鋒矢の陣で攻め入ってます」
「ああそうじゃが」
「これは一度囲いこまれると危険です。だから新しい陣形に変化させます」
「それは車掛の陣です」
これは戦国時代の川中島の戦で上杉謙信が利用した戦術だ。まるで車輪のように軍を動かしながら常に新手の兵を繰り出しながら猛攻する攻撃的な布陣である。
「方円とは違うのか」
方円とは将軍が中心におり、その周辺を円で囲む陣形である。敵の奇襲にたいして全方位で対応できるので防御には適しているがそれも局所的な攻撃には弱いという欠点がある。
「方円を動かしているようなものと思っていただければ」
「そうか」
成良親王はうなずくと俺たちはすぐに兵士達に指示を送った。
そして車掛の陣に変形させると敵はみるみる減っていき残りはわずかとなった。
もちろんそこには北条時行の姿もあり。
「某、総大将の北条時行と申す」
「殿、お止めください」
信州で彼を担ぎ上げた諏訪頼重が止めに入る。だが北条時行は続ける。
「某の相手をするものはおらぬか」
北条時行が一騎討ちを願い出る。
きっと彼もわかっているはずだ。これで負けたら北条時行軍はおしまいだということが。
「俺が参ります」
成良親王と新田義貞に合図を送ると二人は無言でうなずいた。どうやら戦いは俺に任せてくれるらしい。
「某新田義興と申す」
「北条時行殿の願い出、某が引き受けましょう」
かくして俺たちは一対一の戦いを始める。
「そなたはたしか九郎丸と名乗ったはずだが」
「今は新田義興と申します」
「ふっ計られたものだ。まさか東勝寺にいた九郎丸があの新田義興だったとはな」
刀と刀が激しくぶつかり合い、鋭い突きが繰り広げられるごとに鉄の音が響く。
「しかし私も負けるわけにはいかぬのだ」
「それは俺も同じです」
互いに一歩も譲らぬ争い。俺たちは刀を振り回しては相手の急所を狙う。
だが先日の戦とは比べ物にならないほど北条時行は強かった。
「なんだ口ほどのものではないな」
「まだまだです」
俺も鬼丸を握り相手の動きをうかがう。
すると北条時行はなにかに気がついたのか。
「さてはその刀。我らが北条家に伝わる鬼丸ではないか」
「私が勝ったらその刀を取り替えさせてもらおう」
じりじりと端に追い詰められ俺は逃げ場を失う。
「くそっ」
だがその一瞬に隙があるのを俺は見逃さなかった。
「この野郎っ」
すんでのところで相手の攻撃をかわした。
「ふっなかなかやるな」
「北条時行殿もなかなかやるな」
北条時行の見るも止まらぬ剣捌きを目を凝らして刀で受け止める。
斬
刃が俺の肩口に深い傷を残した。胴丸にはどくどくと血が溢れ見るも耐えない姿である。
ここまでか。俺は負けてしまうのか。
そう諦めかけた瞬間だった。
「負けるな、義興」
新田義貞の声が響き渡る。叱咤激励の言葉が俺のところまで届く。
「ここで負けてみっともない姿晒すんじゃないぞ」
そうだ俺は負けるわけにはいかないのだった。やらねばならないことは山ほどある。
「行けええええええ」
俺は全力で北条時行に挑む。勝てるように。この戦いを白星で飾るために。
敵の脇腹に刀がかする。続けざまにもう一撃相手の腹部を狙う。
「どうやらまた私の敗けのようだ」
次の一撃は北条時行に止められたがその一言で決着がついた。
俺たちは北条時行軍に勝ったのだった。




