第四十九話 鬼丸
かくして俺たち新田軍のなかでも数十の精鋭を選りすぐり、北条時行軍を狙うことにした。
もちろん使用する武器は太刀である。
リーダーは新田義貞。彼は白兵戦が得意で今回の作戦でも活躍を期待したい。
「新田義興、お前に渡したいものがある」
「なんでしょう」
菅原神社で俺が戦の準備をしていると新田義貞が話しかけてきた。
「この刀をお主に下賜しようと思ってな」
「これは……」
なんだろうと思って手に取るとそれは名刀鬼丸だった。
たしか北条家の重宝だったものがどうしてここにあるのか。
鬼丸は京粟田国口派の名工で国粟田口六兄弟の末弟の国綱の作でその出自にもいわれがある。
それは北条時頼の治世の時である。
彼は夜な夜な夢に出てくる鬼に悩まされていたところ、ある晩夢に国綱が出てきた。
国綱によれば妖怪を倒したいならば刀の錆をとることだという。
北条時頼は国綱の言葉に従って刀の錆を取るとそれ以来妖怪は出てこなくなったそうだ。
以降鬼丸は北条家に代々伝わる家宝である。
新田義貞は大事そうに鬼丸を抱えていた。
「無下に扱うなよ」
「しかしこれをどうやって見つけ出したのですか」
あの火の海から鬼丸を探し出したということなのか。
「北条高時が自刃した後屋敷から出てきたのだ」
「彼に重用されたお主ならばこの刀を任せられると思ってな」
ニヤリと新田義貞が笑う。任せる、という言葉になにか重たいものをのせて。
「しかし新田義貞さまがお使いになられた方がよいのでは」
「わしは任せると言ったのだ」
新田義貞が鬼丸を下賜する。その重さとともに責任が俺の両肩にのしかかる。
これが伝説の名刀。これが北条家代々伝わっていた宝。
だがその重さは決して悪いものばかりではない。
「わかりました。頂戴させていただきます」
言葉通り俺は今まで愛用してきた脇差しをすげ替えて鬼丸を腰に携えることにした。
気分が改まる、そんな感じがした。
「では行って参る」
足利直義が守る菅原神社を後にして鎌倉街道を下る。
北条時行軍は五万人の兵を擁している。
戦力差があるこの状況で奇襲は効果的だった。
「いけっ」
俺たちは昼間は行商人の格好で歩き、夜になったら夜営をしている敵軍に忍び込んだ。
「せやっ」
宵闇のなかを新田軍が縦横無尽に駆け抜ける。白兵戦では新田軍の右に出るものはなく次々に敵の首を取っていく。そして敵の背後を取ると太刀を振りかざし相手に反撃する余地を与えない。
「せいっ」
俺も新田義貞から賜った鬼丸を使いながら敵将の首をとる。
名刀というだけあってその切れ味は抜群だった。
それだけでなく霊力があり力がみなぎるのを感じた。
「もはやここまでか」
「敵の新田軍がまだ来るぞ」
北条時行軍は混乱の最中にいた。
かくして敵の数は減らせたものの相手は五万人もいる。今後とも油断はできなかった。




