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第四話 やじぇろー

馬小屋で暮らすこと数週間。俺にはこの家の状況が分かってきた。


そして自分の立ち位置が非常に微妙なことも。次に借上のおばさんがやってくるまでは安泰だが、そのあとは保証できないことも。


弥次郎さんは人徳者であり、金持ちであり、最終的には現実主義者だったのだ。


ということで新たなアイデアを馬飼いさんと作り上げました。


その名も。やじぇろー作戦。


馬小屋にいて気がついたことなんだけど、死んだ動物の皮や、魚の鱗にはゼラチン質のものがあるということ。俗に言うところのニカワというやつだ。


それを自前で作り出してジェリーと煮こごりにして売り出そうと言う計画だ。


馬飼いさんは当初は嫌がっていたが妥協して魚の鱗でやることになった。


ということでひたすら魚を釣りまくり、その鱗を剥がして高温で煮詰める。すると生臭さもない素敵なゼラチンができあがった。こういうときだけ弥次郎さんが鋳物やっててよかったと思うのが不思議だよね。


ちなみに魚を釣っている最中、となりで鵜飼いさんや漁師さんに取り方を教えてもらった。鵜の扱いは難しいから基本網か籠みたいなので取ったんだけど。


ごくごくまれに鯉が釣れて、それを弥次郎さんに渡すことも忘れなかった。

その日の夕飯にはお米が出てきた。普段稗と粟だけのまずしい食事だから感動的だった。

これが毎日だったら全米が泣くレベル。


こうして長きにわたる商品開発の結果、ついに納得のいくゼラチンに出会えた。

その名もやじぇろー寒天。


まだこの当時寒天は発見されていないんだけどね。


弥次郎とジェローをまぜた名前だ。駄洒落だと思ったやつ出てこい!

君は正しい!でもダサさは追及しないで!


これを桃の果汁と甘葛あまずらを合わせたものをやじぇろーとして国府の惣社そうしゃに売り付けたのだが物珍しさから結構儲かった。


これで借上さんのお金返せるね!と喜んでいたのも束の間、弥次郎さんに呼び出された。


「お前はこの村を出ていかなければならない」

「なんでですか」

「お前は確かに商売人としては才能がある。俺以上に。だからこそここを出ていけ」


バックにはニューシネマパラダイスの名曲が流れてくる。って誰だよ勝手にBGMつけたの!


「確かに最初は俺も面白半分だった。だけどお前の才能には恐れ入った」

「そんな!」

「だから命ずる。お前は鎌倉に向かい、将軍どのに仕えるのだ」


思いもしないことだった。だって俺まだ新田義貞に出会うどころか敵対しそうな雰囲気だよ?

どういうことなのだろう。ただ戦慄した。


「だから出ていくのだ」

ライオンは自分の子を崖から落とすなんていうけど、俺は弥次郎家から締め出され、紹介状を片手に鎌倉に向かうのだった。


「さよならだけが人生だ」

親父が酔っぱらったときに語った于武陵の『勧酒』井伏鱒二の漢文訳が脳裏をよぎる。


悲しいけどこれが新たな出発だった。

砂糖に関しての指摘をいただいたので少しだけ書き足しました。

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