第四十三話 鎌倉へ
中先代の乱平定のため新政府は成良親王を征夷将軍に、足利直義を執権として鎌倉に派遣した。
対する俺たちも準備を整え彼らとの合流を待った。
「新田義貞さま」
「なんだ義興」
久しぶりの緊張に思わず自分の主の顔を見やる。
「果たして俺たちと新政府軍だけでどれだけやれるのでしょうか」
「それはお前の力量にかかっているわ」
これは期待されているということでいいのかな。だとしたら嬉しいんだけど。
「まあ兵糧も十分ある。今回も前回同様の準備もしてある」
「油断大敵ともいいますよ」
「だが今回は補佐に回ることになる」
「しかし相手が足利直義となると」
俺の言葉になにか気がついたようだ。
「大塔宮が心配だな」
彼は鎌倉で幽閉されている。しかも管理は足利直義が行っているとすれば。
「この混乱に乗じて殺害、ということにならなければいいが」
さすがは新田義貞。あまたの戦を掻い潜ってきただけあって勘がよく働く。
「直義が一枚噛んでいるとなるとそう簡単にはいかないだろうな」
しかも今回は中先代の乱平定が主目的だ。俺たちの兵の多くは北条に回されるだろう。
そのなかで大塔宮が生き残れる可能性は低い。
つまり俺たちの今回の目標は。
北条氏の殲滅。
そして大塔宮奪還。
この二つが鎌倉の戦場にて行われることになる。
何事もなく終わればいいが、と案ずるばかりであった。
そして場面は鎌倉へと移る。
鎌倉の町は一面荒れ果てていて俺たちが以前攻略したときよりも人がまばらだった。
多くの人々が町の外へと逃げ出したのだろう。空き家も多くあり、一部は燃えた跡や崩れた痕跡などもあった。
これが戦争か。そう思わずにはいられなかった。
感慨に耽っているのもつかの間、敵方の北条時行の軍が待ち構えているのが目にはいる。
「もう敵がすぐそこにいます」
「ここは引き下がるとするか」
致し方なく合流する予定である寺の境内にて陣を張る。
するとタイミングよく成良親王が姿を表した。
周囲には多くの兵が待機している。
「新田義貞殿、これはこれは」
「成良親王今回の戦はよろしくお願い致します」
「そう堅苦しい挨拶は結構だ。こちらが噂の息子殿か」
「はい。新田義興という」
成良親王はおおらかに笑って俺たち二人を手招いた。
「今回は執権として足利直義にきてもらっている。だから私の仕事は本陣で構えていることだけだ。指示は直義に任せている」
「ほう、そうですか」
「あとはお主たち新田も頼りにしているぞ」
ぽんと肩の上に手をのせられた。なかなかフランクな人だった。
「何をお話をされているのでしょうか」
会話が途中で切られる。誰だろうと振り返ってみるとそこには生真面目そうな一人の男がいた。
「直義か。こちらが新田殿だ」
「もうすでに知っております」
ふんと鼻を鳴らす。不遜な男だ。これがかの足利直義だというのか。
足利の中でも頭脳派で新政府のブレーンとなる男。
そしてあの足利尊氏の弟でもある。
「これが新田義貞とその息子の新田義興か」
肩をつかんでまじまじと見つめられる。どういうことだろう。俺怪しまれるような個としたのかな。
「とにかく足を引っ張らないように頼む」
ムッ。なんか腹のたつ言い方だな。いちいち言葉の端にとげがあるというか。
「任せてくださいよ」
俺は手を差し出す。だがその手も振り払われて。
「なにか良からぬことを企むのではないかと心配でな」
「そちらこそなにか人に言えないことがあるからではないですか」
相手もムッと来たようだった。まあこれでおあいこだよね。
新田義貞にげんこつを入れられたけど気にしない気にしない。
「まず作戦だが北条時行軍は市内に多く潜伏している」
荒れ果てているとはいえ鎌倉はほんの最近までは幕府があった場所だ。しかも天然の要塞だけあって外からは攻めづらくなっている。
「本陣はここに構えるがそれとは別に北条軍を殲滅する部隊を擁する」
つまりどういうことだ。このおじさんまどろっこしい言い方するな。
「新田にはその後方援助を行ってもらう」
ってことは成良親王と離ればなれになるってこと?
足利直義はうんとうなずく。
それって俺たち蚊帳の外ってことじゃないか。
まずいぞと思いながら作戦会議は終了したのであった。




