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第三十二話

幕府軍は敗退し、分倍河原ぶばいがわらまで後退した。だが油断している隙はない。

なぜなら北条高時が援軍を増やしたからである。


これからは更にきつい戦いになる。

いくらこちらに分があるとはいえずっと停戦で終わらせてきた俺たちは相手方を倒すという目的がある。


それには勝つ必要がある。

数日前俺たちは形だけでも幕府軍に勝利した。だけど相手が悪かった。最終的には停戦ということになった。


そこで先の歴史を知っている俺はとある違和感に気がついた。

俺の本当の親父は歴史について詳しかった。だから泥酔したとき一升瓶片手に語ったものだ。


新田軍はここで幕府と争い、一旦勝利を収めたものの北条軍は増援で形勢逆転したということを。

そして戦略的撤退を最終的には新田義貞が決めることも。


だけどここで負けたくない。

命からがらで生きてきた俺の人生どうせなら白星をあげたい。


そしておれ自身がこの時代にいるという不可思議な事象。

と考えてばかりでいるのはよくないけど。


「九郎丸、後ろだっ」

案の定新田義興が注意してくれる。


「うりゃあああ」

本当は安全なところで弓とか盾とかに専念するはずだったのに大太刀を振り回す。

しかし新田義興がいると心強い反面なにか引っ掛かるものがある。


「案外弱いじゃないか」

「今なら勝てそうだぞ」


案の定敵方は疲弊した新田軍に対して増援が入ったことより元気だ。

「総大将の新田義貞を追い詰めるぞ」

「皆のもの行けっ」


一番後ろにいたはずの新田義貞の周囲の護衛はみなそれぞれの持ち場に戻ってしまっている。

争いだからこそ混乱を極めていた。


「某新田義貞と申す。誰か挑むものはおるか」

「総大将の首をねらえっ」


それを意に介さず新田義貞は相手を向かい打つ。

だが敵はなかなか減らない。


「父上、助太刀いたす」

新田義興が自分の父のもとに駆け寄る。


「ははっこの程度か」

「まだまだ」

敵は集団戦でじわりじわりと二人を追い詰めていく。


このままだと俺たちは負けてしまう。だから俺は二人のもとへ急いで戻る。

「なにやってるんだよ。早く逃げてください」

「武士としての誇りを捨てるわけにはいかない」

「でも今は撤退したほうが」

「我々に敗北の二文字はない」

俺の言葉は相手に届かず。


「逆賊は成敗してくれる」

「さあいつまで余裕でいられるだろうか」

二人は次第に敵方に囲まれていた。


俺が助けないと。そう思うのにからだが震える。

だけど。今や俺は新田一族の一員。彼らには恩がある。


「待ってください!」

腹のそこから声をだし二人の救出に足を踏み出す。

助けられるのは俺だけなのだから。



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