第二話 門出
いでやこの世に生まれては願はしかるべきこそ多かめれ
なんて兼好法師は語ったけれども、人間この世に生まれてしまうと色々欲が湧いてくるよね。
たとえば食欲。なるべく美味しいものをいっぱい食べたい。
だけど貪りすぎると人から顰蹙を買ってしまう。
他には睡眠欲。なるべくゆっくりと休みたい。
だけど寝過ぎると頭痛がするし、何より怠け癖がついてしまう。
最後はもちろん……
と言いたくなったけど下ネタはよくないよね!
ということで現状を説明しよう。
現代日本のとある駅で俺は馬に跨がったおっさんの像を見つけた。不思議と気になり観察しているとそこには珍しい牛車が。これ幸いと俺は便乗してしまったのだがゆらりゆらりとしているうちに意識が途絶え。
俺は武蔵の国の田んぼで泥だらけの状態で倒れていたらしい。
まさか姥捨て山じゃあるまいし。
よりにもよって田んぼとか。せめて畑だったらましだったんだけど。
だが助けてくれた弥次郎さんのおうちでお世話になることが決まり、今日も今日とて草むしりだ。
しかし、ここは案外都会の方らしい。
なぜなら国府が傍にあるから。
国府とは大和の国が設置した市役所みたいなものだ。
毎度お米や反物、特産品などがやってくる。
本来それを京都に運ばないといけないんだけど。
ここがややこしい。今は鎌倉時代末期。つまりお侍さんもここにいてお金を欲しがっている。
多くが荘園といって有名なお寺の傘下に入ったりしているから
ここで訴訟沙汰が起きるのが世の常なんだけど、どっかの誰かが徳政令なんて出しちゃったからもう大変ですよ。揉めに揉めるところもあるんだって。現代っ子でよかったあ。
ついでに月に何べんかお寺で市がやっているんだけど
これにはまだお目見えしていない。今後が楽しみだ。
噂によれば女の子とかいっぱいいるんだって。場が華やぐね。
ちなみにこの時代貨幣は銭とかお米とか布切れとかを使っていたんだって。しかも銭は外国から輸入していたんだとさ。これもまた親父が飲みで絡んできたときに聞いたネタだ。
東日本では銭と布が中心らしい。お金を他のもので代用するって変わった感覚だよね。
あれっ?考えてみれば布切れをお金で代用しているようなものなのかも。
ということで俺は日がな弥次郎さん家の田んぼで雑草と格闘しつづけているのであった。
案外ほのぼのしているね。