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第二十二話 生品明神

倒幕の旗をあげるのは生品いくしな神社でだった。

「これより鎌倉に向かって矢を放つ」

新田義貞が声を張り上げる。


陣を張るのはもとは農民でもある兵士たち。彼らは真剣な面持ちでことの行く末を見守っていた。

陣形は魚鱗と鶴翼を中心とすることに決まっていた。


そうそう魚鱗とは戦でよく使われた陣形であり簡単に言えば三角形の陣である。

一方の鶴翼はv字形の陣であり、どちらも後の戦国時代の武田八陣形に含まれている。


と話がそれてしまった。

そもそもなぜ挙兵することになったかと言えば。


俺と新田義貞が裏切りを決意したあと正式な使者が鎌倉幕府から派遣されてきた。

その使者を予定通り新田義貞は斬り、北条高時の怒りを買った。


その結果新田義貞とその弟、そして俺の成敗が命じられ、国全体に緊張が走った。

実際に決めたのは北条高時だけではないのだろうけど。


鎌倉幕府全体の意思ということだ。


これで一度一族全体の会議があった。それに参加した一同は。

「このままでは一族の滅亡にもなりかねない」

「誰かの首を差し出して、幕府の許しをこうのはどうだ」

「そうだ。いくら新田義貞が倒幕の計画を練っているからとはいえ」


皆不安なのかどこか弱腰だ。そこで新田義貞が俺に目をやる。

「ですがここまでくるとそれだけではすまないはずです」

「九郎丸、説明をしろ」

そして舞台袖の近くに身を小さくしていた俺を呼び寄せる。


「これは我々への試練なのではないでしょうか」

「というと」

新田一族がざわつき始める。


「今鎌倉幕府は荒れています。そして俺たちは幕府から更に金を要求されました。このまま従っているだけでは時代に潰されてしまいます」

「どういう意味だ」

皆が険しい顔つきになる。


「だから新田義貞さまも倒幕の計画を練っていました。そして今がそのときなのです」

誰もが息を飲む。

「武士は自分の命よりも名誉を重んじると言います。この機会に幕府を倒すだけではなく朝敵として成敗するのです」

「しかしそれでは一族の命運が」

「越後の新田一族に力を借りるのではダメだろうか」

周囲からはぼそぼそと声が漏れる。


「名誉こそ武士の命です。ここは義兵挙げて天に運を任せましょう」

その一言ですべてが決まった。

「確かに九郎丸の言うとおりだ」

「そうだな」

最後は新田義貞が静かにうなずいていた。


舞台は生品明神に戻る。

俺たちは幕府への謀反を決意した。

そして新田義貞は矢を鎌倉に向かって放つ。

「挙兵だ」

この神聖な場所ですべてが始まる。翻意を決意した楠軍のことなんか笑えない。

これからが戦いなのだ。

生きるための。武士としての誇りをかけた、鎌倉幕府を滅ぼすための戦いだ。


今でも鏑矢祭で実際に生品明神では小学生が鎌倉に向かって矢を放つそうです。


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