第十六話 迷い
「なあどうしよう」
瓜坊を前に俺は独り言を呟く。
ちなみに俺が考案した家畜作戦だけど最初はビックリするくらい失敗した。
大きくなった猪は柵を破って逃げ出すし、子供も大量に生まれる。
猪というのは瓜坊のうちは人懐っこくて可愛いんだけど、成長するととんでもない生物に進化するのだ。
彼らが畑の野菜を食い散らかしたり、民家に侵入したりとトラブル生産だけはすごかった。
ということでロビンソン・クルーソーにならってこれまたひとつルールを。
子供が新しく生まれたら、親を屠ることに。残酷だけどこうしないと恐ろしい数になるから。
こうしてお肉はみんなで分けることに。
一応猪って牡丹ってことになってるからね。
っていうかこの時代の人たちってこっそりお肉食べてるからね。
だから狩りが趣味の人とか多いんだよ。
っていかんいかん。
俺は今悩んでいるんだった。
かくいう俺は新田義貞の養子になるかと打診を受けたのだった。
普通だったら喜んで引き受けるのだろうけど内心は複雑だ。
だけど断っても俺に帰る場所はあるのだろうか。
弥次郎さん家にしても北条高時にしても俺はあの場所にずっといることはできない。
なぜなら俺は21世紀からやってきた未来の人間だから。
しかも歴史で鎌倉幕府が倒れることは知っている。
そしてそのあとの展開も。
親父の話ちゃんと聞いておけばよかったと今更ながら後悔する。
本当ならもっと上手くできたんじゃないかとか。
誰かを守ることができたんじゃないかとか。
ニートの俺には高望みかもしれないけど
もっと親父の話聞いておけばよかったのかもしれない。
ああいう言葉はすんなりと耳に入らないものだ。
だからずっと耳をふさいでニートをやってきた。
何かを選ぶということは何かを捨てるということだ。
自分ができたはずの何かを見逃すということだ。
それは俺には酷だった。
「九郎丸、弥次郎さんから文が届いたよ」
伝書係の男が俺に声をかけてくる。
手渡されたのは安っぽい紙きれ一枚。そこには下手な字面でただ「げんきか」と記されていた。
俺の世話をしてくれた馬飼いさんからだった。本人は物静かで字は読めないとぼそりと呟いていたけど。
「一生懸命書いてくれたんだ」
多分努力して字を覚えたんだろう。俺の世話をしてくれた彼が最初から始めて送ってきてくれたのだろう。馬の扱いを教えてくれた馬飼いさん。ゼリー開発のために協力してくれた馬飼いさん。
「俺も選ばないとな」
ようやく覚悟というものができた瞬間だった。