第十五話 戦況
「鵜飼はいとほしや
万ごう年経る亀殺し
また鵜の首を結ひ
現世はかくてもありぬべし
後生我が身をいかんせん」
武家造りの屋敷から新田義貞が今様を口ずさむのが聞こえた。
「なんのご用ですか」
「いやちょいと話があってな」
ついでに俺が呼ばれて、正座で座ることになる。
「お主は法衣を身にまとい、それだけでなくこうして機転が利くのだからきっと元は身分の高い方だったのだろう。それにもかかわらず私の仕事を手伝い、常に付き従ってくれていることが不思議でな」
「いえいえ。もったいなきお言葉」
「世辞ではない」
人のこと急に誉め出してなんだろう。
なにか企みでもしているのかと不安になる辺り俺も大概ニートなんだけど。だって俺が実家で暮らしていたときは親父から常に訳のわからん説教食らってたよ?
「お主のお陰で我が上野国は安泰じゃ。だが少し腑に落ちないことがあっての」
「なんでしょうか」
まさか俺がただの21世紀のニートだってことがばれたの?
胸の鼓動が悪い意味で高鳴り、背中に一筋たらりと汗が伝う。
「先程古い今様を唄っただろう。ちょうどあのように、私は自分のことをまるで鵜飼のようだと思っていてな」
「はっ。どういった意味でしょうか」
「侍である以上殺生をすることからは避けられない身の上であるということだ」
新田義貞は一息つく。
「そして国を治めるからには当然民の苦しみを知り、またその反対に民を苦しませることだってある」
「しかし主君というものはそうでありましょう」
適当に相づち打ったけど、彼の話なんかまどろっこしいな。
というか何に不安なの?俺今疑われてんの?
「私はお主を選んだことは正解だと思っている。だが時おりお主が鵜飼に連れられる鵜そのものに見えてくるのだ」
正確には俺のこと脅していたんだけどね。
「あの唄は鵜飼のことを気の毒に思う唄だが、そなたもきっと同じ業を背負うのかもしれないと思うと心配でな」
「なにか憂いことでも」
「いや、最近京では赤松氏と六波羅探題の争いで幕府との戦いは一進一退となっている。その上比叡山の山門の僧兵たちがやりこめられたとも聞く」
たしか太平記によれば赤松氏が先に勝利してから六波羅が今度は勝ったんだっけ。激しい攻防の後結局引き分けになり児島高徳が錦の御旗を回収して、六波羅は寺院に火をつけたんだとさ。
「争いが増えていくのは目に見えている。その中でお主を連れ回すことに不安を覚えてな」
「というのも?」
「このまま私の養子にならぬかと聞いている」
えっ?言っていることおかしくない?俺の安全とかなにも考えてないよね?
「どうしてでしょうか」
「それはお主が欲しいからじゃ。その高貴な出自、卓越した才能、あとは軍功さえあげれば私の後継者として問題はないだろう」
それに、と付け足す。
「連れ回すならもっと分かりやすい関係の方がよかろう」
彼は問題大有りな発言でにたりと笑うのであった。




