第十三話 大塔宮
この話はちょっとうさんくさい雰囲気で楽しんでもらえれば。
大塔宮が山中で潜んでいるとの噂だった。
新田義貞は執事の船田義昌の言葉により翻意を決意した。
大塔宮の令旨を申請して、幕府にたいしての戦が始まった。
そしておれ自身も新田軍と行動を共にすることに。
結果的に北条高時を裏切る形になってしまった。
ただ申し訳なかった。だが新田義貞も俺の気持ちを慮り、厳しいことは一言も言わなかった。
そして新しい仕事だ。
戦乱により民衆は動揺していて。俺の仕事は彼らの食料を調達することだった。
食料としてイメージするのは稗や粟だけど、それより栄養価の高い食材がほしい。
だからとあることを思い出した。
そして前にお世話になった問丸のツテで俺は近江の馬借の協力を得ることができた。
そのネットワークで情報収集。必要なものを必要なだけなるべく安く仕入れたのだ。
本当ならここで寺社勢力に関税を払わないといけないんだけど
それも新田義貞の力でどうにかなった。
かねてより西日本では貨幣は銭と米が中心と聞いていた。
集めるなら交換しやすいものの方がよい。
悩んだ結果、米を集めることにした。
とにかく金が必要だ。ということで。
以前より構想を練っていた作戦に出た。
その名も。
「カツオのたたき売り出し作戦」
徒然草によれば鰹を生で食べる習慣は兼好法師が若い頃にはなかったそうだ。大抵加工したものを貴族達は口にしていたらしい。
だから土佐の鰹を仕入れ、それを火に炙ったものを売り出す。
これがなかなか大盛況で、貴族はもちろん、武士も庶民もこぞって買うような状況だった。
何より鰹は栄養満点。タンパク質は豊富だし、鉄分はもちろん、ビタミンB12、ナイアシンも多く、体にとてもいい食材なのだ。
食べないなんてもったいない。
だって滋養強壮に効いてさらに美味しいとか最高だよね?
俺もカツオのたたきは大好物だよ?
みんな自分の銭や米と引き換えに鰹を求めるようになっていた。
薬味は近くでとれたネギや生姜、茗荷をかけて、醤を使う。
それだけで大行列ができるほどだった。
こうして戦乱の世の中でも金は集まるもので。
新田軍の勢力は力を増した。
俺は新田義貞本人からお褒めの言葉を預かり、ある程度の仕事を任されるようになった。
それ自体は信用されている、ということでいいのだろうか。
ただ心のそこにあるのは澱のように沈んだ感情だった。
本当にこれで良かったのだろうかと。
俺は自分自身に嘘をついていないかと。
ただ不安だった。
そんな気持ちを知ってか知らずか楠軍と新田軍を得た反幕府勢力は日に日に強大になっていくのだった。