第十二話 京都
京都では大変なことになっていた。
まず死んだはずの楠木正成が天王寺を奪還したこと。
そして反幕府への機運が高まっていること。
六波羅探題もボロボロになり、幕府は反勢力を一斉に攻略を始めた。
ひとつは赤坂。もうひとつは吉野。そして金剛山にある千早城。
北条高時も本気を出してきたようだ。
まず最初に幕府軍は赤坂を攻略。城主の捲土重来は偽装降伏を目論んだが、捕虜は全員斬首、獄門にかけられた。
吉野城も幕府軍が勝利。大塔宮は自害を装って逃げおおせたようだけど。
あっ大塔宮は後醍醐天皇の息子で武芸に秀でた立派な方だよ。少し前まで熊野や十津川に潜伏していたんだって。興福寺の兵に襲われたときは大般若の櫃に隠れて生き延びた非常に才知に優れ運のいい人だ。
そして最後の金剛山。俺と新田義貞は当初幕府軍側につくはずだったけど。
幕府は楠木正成の本気のゲリラ戦術を前になすすべもないし。
何より、新田義貞はとても実直な性格。彼の性分からしてもなにか思うところはあるようで。
「私はご先祖さまよりもおろかな男であるが、清和源氏の統帥たる身として今が平家を諌める時なのではないか」
あちゃあ。すぐに寝返っちゃったよ。
「ちょっと待ってくださいよ、じゃあ俺の立場は」
「私の部下になればよかろう」
「そもそも北条高時が政治をまともに行っていればかような状況には陥らなかっただろう」
「おっしゃる通りですが」
「それとも今すぐ鎌倉に帰るか」
「するとどうなるんです」
「お前も斬首になって河原で見世物にされるな」
それだけはやめてください。そう懇願しても相手にされず。
「九郎丸、お前は才能のある男だ。私のしたにつけ。損はさせない」
確かに商売はちょっとうまくいったけどほとんど人に頼ってばっかりだったし。
何より俺はあの北条高時を裏切りたくない。
あんなに優しくて穏やかで、愉快な人はいないのだから。
彼の期待に応えたい、ただそれだけでいいと思ったはずなのに。
今、俺は選ばなければならない。
いくら彼が優しくとも世間ではただのアホ扱いだ。
だから新田義貞が翻意を始めている。
多分説明しても理解は得られないだろう。
だから苦渋の決断を下さなければならない。
自分が今を生きる方を。
人の道に反して北条高時を裏切って生き延びる方を。
ちょっと暗くなってきました。