第十一話 新田義貞
第一印象は武骨で横柄そうな男だった。さすが清和源氏の名門の出なだけあって自信に満ち溢れ、どこか理知的な雰囲気がする。
俺は数週間にわたる山伏たちとの旅のあと、ようやく謁見することができたのだ。
みんなありがとな!旅は順風満帆で文句なしだったからさ。
俺はボロボロになった衣服から新たな法衣に着替え、目的の館へと進んだ。
そして十一話目にして出会えた新田義貞。彼の実直な性格ゆえか、それともたまたま運が良かっただけなのか、謁見することが叶った。
ということで戦の始まり始まり。俺は北条高時からの文を懐からだし、それを手渡す。それだけでもひとつの儀式のように感じられた。
「北条高時様からの要請です。楠軍が天王寺に陣を張り、幕府軍は窮地にたたされています」
俺の言葉に彼の表情が曇る。だがここではいそうですかと引き下がるわけにもいかないので。
「どうかお願いします。これは高時さまたっての希望なのです」
床に額がつくくらいに頭を下げる。ちなみにおれ自身がニートなのでこの点に関して言えばプライドなんてない。というか持ち合わせるほど位が高いわけでもないし。
「だが清和源氏の統帥たる私が安易に動くわけにもいくまい」
「そこをなんとか」
やはりというか。かねてより歴史では源氏と平家が互いに諌めあった仲だと太平記には記されていた。身分の上のものとして学問を修めた本人もそう思っているのだろう。
「嫌だ、と申したらどうする気だ」
「清和源氏の名門の方にもうお願いするしかないのです」
もう土下座しちゃったしどうしよう。他にネタなんかないよ。
「お願いしますお願いしますお願いしますお願いします」
念仏のようにただお願いしますと唱える。
「もういいお前のやる気は買う」
だが、と新田義貞は付け足す。
「兵をあげるにもこちらでは農民が忙しいこともある。それを含めて本当にやらねばならないことなのか」
暗に今の幕府への不信感を示す台詞だった。当然だろう。俺自身は北条高時と接したから彼が悪い人間でないことだと分かるが、噂だけならただの田楽と闘犬好きのアホなおっさんだ。
もしかしたらダメかもしれない。だけどここが勝負時だ。
「緊急事態なのです」
「それは本当に大事なことなのか」
いぶかしげな視線を向けられる。まるで自分自身を見透かされているようなそんな気がした。だから誠実に答える。
「はい、この俺が鎌倉街道を駆けて来るほどには大切なことです」
俺が真剣な顔つきでうなずくと。
「よかろう」
意外や意外新田義貞は笑っていた。
「立派な心意気だ。高時どのもよい部下を持ったものだ」
そして顎を引いて俺を呼び寄せると。
「お前のことは気に入った。京までついてくるがよい。それが条件だ」
まさかまさかの俺が合戦に巻き込まれるフラグでしたとさ。
この話は完全なるフィクションですので。一応新田義貞の人物像は太平記を参考にしています。