序章・真実に近づいた愚者
人々は夢へと歩み、そして生きる。
カタチはどうあれ、行き着く先は皆が同じ死という場所。
それは一つのルールとなっている。どんな生き物であれ最期には死が待っている。
絶対なる法則として何人も遮ること、誤魔化すこともできぬ絶対なる法則である。
「これが原則の答えであり、真実だ」
一組の夫婦が存在した。今からその夫婦はとあるルールを破ろうとしている最中である。
夫婦が居る場所は『立派な図書館』と、胸を張って言える程の大量の本に囲まれた部屋だ。
その部屋の中央には小さな机が一つ設置されており、その上には一枚の金色に輝くメダルが置かれている。それが儀式に必要な必須アイテムらしい。
「マリア、準備はいいな?」
「ええ、レナードの方こそ大丈夫なの?」
「心配無いさ。緻密に計算された方法だからね。それよりも胸の高鳴りが止まらないよ」
ルールは絶対だ。
「じゃあ、始めるぞ」
破ってはいけない。
「あなたに任せる」
破れば、相応の罰が下る。
そして数分後のこと、
「う、わぁぁあぁあああ!」
「きゃああぁぁあぁああ!」
メダルからは黒い霧が放たれた。光は大量の本を、それを保管していた棚を、豪華に飾られた絨毯や絵画を、周囲の全てを巻き込みながら呑み込んでいく。
「マリア!」
「レ……、ナード………」
薄れて行く記憶。走馬灯と呼べる至福の時も無い、それほどまでに『死』が早く迫る。
レナードという男の体は説明できない力によって急激に腐敗し、消滅した。
一方のマリアという女の体には異常は無く、気絶だけの被害で終わった。
二人は近付き過ぎたのだ。神の領域に………。
『現実よ、真実の為に在れ』
それはこの世の神が定めた絶対原則。
一つ、生きとし生ける者は死を迎えるまでこの原則と共にある。
一つ、何人もこの原則を破ることを禁ずる。
一つ、原則を破棄した者の存在は許されないものとする。
一つ、………。
何人も神の創りし真実を覆すことはできない。
どれほどの権力者であろうと、どれほどの独裁者であろうと、神の前では全て無に等しき生き物である。
だが、人がいつも挑戦して目指すのは神の頂であり、それも自然のルールである。
「………レナード、助けて………」
マリアは倒れる。胎内に新たな生命を抱えた状態で………。