プロローグ
ずんずんと大柄な体にものを言わせて廊下を突き進む。
すれ違う身なりのいい男たちや女官たちが頭を下げ、通り過ぎるとその後ろ姿を熱っぽく見送った。
2メートルを超えた巨躯にバランスよくついた筋肉。藍色の髪に青火の瞳。鋭い目付きの整っているが男らしい顔立ち。常によっている眉間の皺を和らげて差し上げたいと夢見る乙女は数多くいる。
本人は怖い顔をさらに恐ろしくして舌打ちをしてばかりだ。
「失礼する」
ノックもなしに扉を開けて入ると、広い室内で書類を処理している壮年の男と、その傍らに立っている同じ年頃の男がこちらを見た。
「どうした。怖い顔して」
「勝手に話を進めないでくれと言ったはずでしょう」
「んなこと言ったって、いつまでたっても噂もないお前のためを思ってだな」
「余計なお世話です」
「何がそんなヤな訳?」
「年頃の、麗しい方ばかりですよ?」
穏やかそうに微笑んでいた男が困ったように口を出す。じろりと男を見る。
「そう言うならばあなたがお相手すればいい。私よりもあなたの方が年も上でしょう」
「私は既に一度お会いしていますが、この方、という人はおりませんでしたから」
片眼鏡をかけ直し、微笑う。
「お前らね、いい加減にしなよ?オルク、お前はさっさと嫁をもらえ。ロゼ、お前も年なんだから後継ぎのこともあるだろ?さっさと作って引き継ぎしてな。お前の子供には期待してっから」
「陛下、」
「異論は聞かん。さっさとしないと次々に夜這いかけさせるぞ?」
そう笑う男に、2人は顔をしかめた。
やると言ったら、やる。
そういう男だと嫌と言うほど知っている。
ひとつため息をついて踵を返したオルクに、男はにやりと笑った。しかしその笑みは呆気なく崩れることになる。
「迎えに行ってきます」
「迎え?」
「ええ」
足を止め、振り返ったオルクは子供が泣き出しそうな微笑を浮かべている。
ぞくり、と。
やばいと本能的に察するが、すでに遅い。
やってはいけないことを、言ってはいけないことを言ってしまった。そんな気がひしひしとした。
「まだ説得できていませんでしたが、そうも言ってられないので。無理矢理になりますが、他ならぬ陛下の命ですからね。仕方ありませんが連れてきます」
「おいおいおい、何のことだ」
聞きたくないが聞かねば話がわからない。
「あなたが言ったんです。嫁をもらえと。私は、あれ以外を嫁にする気はありません。だから連れてきます」
「女がいたのか!はやく言えよそういうことは!」
「いつからです?調べてもそんな影はありませんでしたのに」
「話したらうるさいでしょう。そういった事が嫌いな奴なんですよ。10年くらい前、ですね。魔王の縁者です」
それだけ言ってオルクは部屋を出ていった。扉が閉まると、目がこぼれるのではないかというくらい目を見開いた2人の口がぱかんと開く。
「は?」