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植生  作者: 藍沢 要
第二章 高木層
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第22話

完全創作なので、ここに出てくる事業も創作です。関係している部署も多分間違っていると思いますが、御容赦ください。

椿が結婚したというスーパーサプライズがあろうが、俺の時間は進んでいく。

何も知らなかった一族や社の人間からすれば格好の噂の的であるはずの椿は既に会社を辞めているし、元婚約者である楓や、現夫である緑川光に話の真相を勿論聞けるはずもなく。

ようやく本社に帰ってきた樹にしても当座の仕事が忙しいし、そもそも営業以上に忙しいとされる開発部においてそんな話を聞けるほどツラの皮が厚いやつはいない。自然空想とも言えない作り話が先行していくのだが、支社にいる俺からすれば全く知りようもないことで。

多分樹のことだ。聞かれたとしてもすらりとかわしているだろう。



今俺は本社と合同で行なう、とある巨大プロジェクトの打ち合わせで本社に来ている。そこの一番大きな第一会議室で、席に座ってコーヒーを飲みながら渡された資料を読んでいた。

今回のプロジェクトは国家事業の大規模なもので、南米のある国に巨大な橋を建てる壮大なプロジェクトだ。建設期間は15年、建設費は100億ドル相当。当然日本だけではなくアメリカやイギリスなどの国外企業も参加している。うちの会社が主体とは言え、多国籍な企業が多数参加するだけあってこの会議室にはテレビ会議用のモニターが何台も用意されていた。

ちなみに担当するのは、本社の第二営業部と海外事業部、事業総括部と開発部やあと様々な部署から優秀な人材を引っ張ってきている。うちからは社長である俺が直々に指名され、子会社ながらも引き連れて来たのはうちの粒揃いの精鋭ばかり。こいつらがこの案件に集中することで今やっている他の仕事が多少は穴が開くだろうが、それでもこいつらにこの巨大プロジェクトに関わって欲しいと思ったのは、俗に言う親心ってやつなのだろう。


資料から目を上げると会議時間の15分前と言う事もあり、他社からも続々と担当者が来社し、広い会議室はすでに人で溢れかえっていた。各部署の担当者同士の名刺交換がそこここで行なわれている中、俺も席から立ち上がって連れて来た部下を紹介しがてら、他社の担当者と名刺交換をしていく。

その時、見知った顔があったので俺はにやりと笑ってやると彼女も俺に気付いたらしく、その華やかな顔を綻ばせ、隣にいた部下らしき男の目を奪っていた。




「よお。お前んとこの会社の名前があった時はまさかなと思ったが…」

「あら。私が来たら何か問題でも?」

「まさか。むしろ頼もしくて泣けてくるね」

「全く…相変わらずね、海斗」

「お前もな。衣里」



今日はあの地味一辺倒な化粧はしていないらしく、彼女本来の顔で来ている。と言うか、最近ではメイクしている事の方が少なくなったのだが。

今日は派手になりすぎないように抑え目なメイクを施しているが、華やかさは隠しきれていない。久しぶりに会ったが、相変わらずのすらりとしたスタイルの良さには思わず目を引いた。現に会議室にいる男の目線を独り占めだ。



「てっきりあの地味な格好で来るのかと思ってたが…」

「ああ、あれはもうおしまい。今の会社で顔バレしちゃったんだもの。今更何時間も時間かけてメイクするのも無駄なのよね。それに、仕事が忙しいから時間が勿体無いし」

「衣里がここにいるってことは…お前が今回の担当者か?」

「そうなるわね。部下の子達も連れて来たけど、ほとんど現場に出たことがない子がほとんどなのよ。現地に行けって言ったら『嫌ですぅぅ!』って言いそうな…」

「なんでそんなの選んだんだよ…」

「やる気がないなら仕事なんて辞めればいいのよ。それくらいの覚悟でやられたら、こっちが迷惑じゃない」

「きっつ…!ま、精々揉まれて鍛えられればいいがね」

「本当よね」



衣里が今回のプロジェクトに参加するのは心強いが、かき回すのだけは勘弁だ。

こいつはアメリカの不動産王ロバート・スタンフォードの養子でありながら、かの名門イエール・ハーバード大学を20歳そこそこで飛び級で卒業し、いくつも学位を持っている天才。そのくせ暴行事件のせいで性格が歪んだお陰で、何人もの男を手玉に取っているにも関わらず、誰にも靡かない。その誰にも靡かないスタンスが逆に男の狩猟本能を擽るのだろう、俺が知っている限りではアメリカやイギリスの実業家はおろか、政治家までもをその手中に収めている。

頭脳がずば抜けているおかげで記憶に留められるため書き残したりはしていないようだが、万が一書き残していたりしたら上も下も巻き込んで大スキャンダルだ。


そんな衣里だが、仕事面においては優秀すぎるほど優秀。タッグを組むにあたってはこれほど頼もしい味方もいないだろう。

何故なら10ヶ国語以上話せるし、建築学の学位は勿論、最近では環境面でのバックアップも滞りなく各方面に根回し出来るほどの政治力も持っている。

全く、衣里を引き抜いた会長はやれやれと思っているだろう。



「海斗の方も最近順調そうね。噂、聞いてるわよ」

「そりゃどうも。天下の衣里・スタンフォード・佐藤に誉められるとは、今日は雪だな」

「失礼ね!」

「っと…衣里、あれがうちの第二営業本部長。んで、あの隣にいるのが海外事業部の部長と、チーフ」

「ああ、さっき名刺貰ったわ。なかなか優秀そうな人でいいんじゃないかしら。ああ、でも営業部長付きの秘書は駄目ね。全然駄目。資料渡すとき、順番バラバラなんだもの。それに他の子がてんやわんやでコーヒー配ってる時に何人かでサボってたしね」

「ぶっ……くくっ…悪い。ツボに嵌った…っ」

「なあに?あの子知りあい?」

「一応うちの一族のもんだ。悪いな、あれ、仕事できねえんだよ」

「仕事出来ないのに、第二営業部長の秘書やってるの?全く…楽な仕事してるわね」



呆れたような衣里の表情は相変わらず、立錐の余地もなく美しい。ちらりと視線をやると、開発部課長のなんたらって男と喋っている萌花が目に付いた。あの様子だと十中八九出来てるな。

にしても、衣里も萌花もほとんど年が離れていないにも関わらずこの明確な差は何だろう。

確かに衣里と萌花では総資産額が違うし、自分にかけられる金額も天と地ほど違う。にしても、萌花の化粧で誤魔化しきれなくなった劣化具合は正直見苦しい。


あんなのと結婚する男は大変だな。



完全に人事だと思いながら衣里と別れ、自分の席に落ち着くと静かに会議が始まる合図を待った。

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