私より幼馴染の言い分を信じるのかしら?
「お前、ユーナを泣かせたんだって?」
「はい?」
ルディス・ロクエーヌ子爵令嬢は婚約者のアルーズ・オニート伯爵令息の言葉に思わず聞き返した。
「だから、ユーナをいじめたんだろう?」
「ユーナって貴方の幼馴染だとおっしゃるフェルーナ男爵令嬢の事かしら?」
「そうだ。あいつ、泣いていたぞ。お前に髪を引っ張られて、頬を叩かれたとな。後は久しぶりに出た夜会でわざとアイツのドレスと同じ物を着て、恥をかかせたんだろう。全部聞いてるぞ」
「それは誰から?」
「もちろん。ユーナからだ。お前がそんな意地汚い悪女だったとは思わなかったぞ」
自身の屋敷でのお茶会ではあるが、久しぶりのデートに浮かれていた自分に喝を入れたくなった。
ルディスは思わず大きなため息をつく。
「貴方はいつだって彼女一番なのね」
「何の話だ?」
「だって、会う度に“今日はユーナの調子がよかった”、“あのドレスはユーナによく似合いそうだ”、後は“このお菓子はユーナが好きそうだ”もあったかしら?」
「それの何がおかしいんだ?アイツは体が弱くて、あまり出歩けないんだ。可哀そうじゃないか」
「貴方から見た彼女はそうなのね。そんなに出歩けないなら、一体いつ、私が彼女をいじめられたっていうの?」
「それは…学園に来た時とか?」
「はあ…。アルーズ。忘れたの?私と彼女、別の学校でしょう?」
サーガス王国は様々な分野に特化した魔法学園がしのぎを削っている。
ルディスやアルーズが通う王立魔法学園とユーナが籍を置いている聖サーガス魔法学院もその一つである。
「それに学院にいる友人に聞いた所によるとユーナさんは皆勤賞らしいわよ」
「そんなはずは、だって、あいつ、全然学院に行けないって涙でシーツを濡らしていた」
「嘘だと思うなら、調べてみれば?貴方だってあちらの学院に友人はいるでしょう?」
「そうだが…。ユーナが嘘をつくはずないだろう」
「なら、私が嘘をついてるっていうの?酷いわ。大体、夜会でのドレス被り事件だったかしら?あれだって貴方見たの?」
「見てるわけないだろ。俺が参加していない夜会での出来事なんだから」
「あのねえ。私は貴方としか夜会は参加してないでしょう。違う?」
夜会とは自分以外とは行くなと言ったのは彼の方なのだから。
「あっ!」
合点が言ったようにアルーズの目が見開く。
「今さら気づいたの?私、貴方との婚約考え直そうかしら?」
「それは…」
「だって、婚約者じゃなくて幼馴染の話を信じるような人と上手くやっていける自信ないわ」
「すまない」
頭を下げるアルーズ。
それでもルディスの胸にはモヤモヤが残る。
「俺はユーナじゃなくて、ルディスと家族になりたいんだ。好きなのもお前だけだ」
「その割にはユーナさんに会いに行く頻度が多いんじゃないかしら?」
「妹のようなアイツに泣かれると弱いのは事実だ」
「彼女は貴方のそういう優しい所に付け入ってるのよ。女だから分かるの」
ルディスは紅茶を一口含む。
「それは…」
反論したそうなアルーズ。
だが、彼女が嘘をついていたと認めているのが押し黙る。
「そうだな。ルディスを疎かにしていたのは認める。ユーナだって独り立ちするのにいい時期かもしれない。これからはあまり顔を出さないようにする」
「それ、守れるのかしら?」
「見ててくれ。それでも許してくれないって言うなら、婚約破棄でもなんでも受け入れるから。この通りだ」
「分かったわ。今回だけは許してあげる。だけど、次はないから」
「ああ。ありがとう」
アズールは心底嬉しそうに微笑んだ。
この後、彼は約束通り、幼馴染に会いに行く事はなくなった。
そして、それと同時になぜかこの幼馴染が頻繁に出歩く姿が目撃されるようになったのは別の話である。




