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薬も過ぎれば  作者: 伊織ライ


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ナタリエ・アーベントロート2

「……貴族の男性は、そういう所作なども習うものなのですか……?」

「まあっ、殿下は積極的に攻めておられますのね! 素敵ですわぁ〜!」

「ナタリエ様、貴族だからといって皆が等しくそのような振る舞いを出来るわけではございませんよ?」

「ええ、そうですわよね。相手に興味を持ってしっかり見ていなければ、なかなか気付けないものですわ!」


 今日はエレノア様とグレーテル様がお見舞いに来てくれている。カトリン様も加わって女の子同士のお茶会だ。

 エレノア様はレースが使われた大人っぽいデザインのドレスを身に纏っており、すっきり見えつつも華やかで顔色まで明るく見える。あれからドレスを仕立てる際、自分の希望をお母様と針子に伝えられたそうだ。最初は太って見えるのではと渋っていたお母様も仮縫いのドレスを合わせて見て納得し、これからはもっと似合う服装を考えてみようということになったらしい。あれこれと華やかな色の生地を選んだり、スタイルが良く見えるラインの工夫もしているとのこと。エレノア様はこんなに可愛らしいのだから、色々なオシャレを楽しめるようになったのは良いことだと思う。

 またグレーテル様の婚約者の母であるリード伯爵夫人は、あの日処方したハーブティーが身体に合ったようで随分体調が改善したと聞いた。以前と同様穏やかに会話を交わせるようになり、婚約者との関係も素直に相談できたのだとか。実家には全く顔を見せない息子の現状を初めて知った伯爵夫人は衝撃を受けつつも、グレーテル様にはきちんと謝ってくれたそうだ。今後についても場合によっては親戚筋から養子を取り、相性がよければそちらと縁組みしなおすことも検討中らしい。


「今度のお相手は私よりも年下なのですが……こんな頭でっかちな女でいいのかと聞きましたら、尊敬できる相手と結婚できるのは喜ばしいと言って下さって……」


 頬をほんのりピンク色に染めてそう話すグレーテル様はとっても可愛らしかった。せっかくこれまで沢山の教育を受けて来たのだ。グレーテル様の努力が報われて、それと同時に幸せになれる道があればいい。


「それよりも、ナタリエ様ですわ! 大変な目に遭われたことはお聞きしましたけれど……。正直、ナタリエ様のお顔色が思ったより明るくて安心いたしました」

「王弟殿下が四六時中ぴったりお側に張り付いて、それはそれは丁寧に介抱されておりましたのよ!」

「まあっ! 愛ですわね……!」

「愛?! そんな、そういうことではないかと……!」


 やはり年頃の女の子同士が集まると、どうしてもそちらの方面の話(コイバナ)が盛り上がる。


「殿下はかなり分かりやすいと思いますけれど……そうですわね、それよりもナタリエ様の気持ちが重要ですわ」

「……私の、気持ちですか」


 ──ずっと、目を逸らし続けてきたことだ。

 かつての私は愛を捧げ続けて裏切られ、その反動で愛を求めるばかりに恨みを買い、そして人を愛することが怖くなってしまった。

 だからもう、ひとりで生きていこうと決めたのに……。


「以前私は、ナタリエ様を悪女だと思い込んでいた際に『王弟殿下に近付くなんて許されることではない』と申しましたわよね。その時ナタリエ様はこう返したはずです。『立場の違いはわきまえているから』と」

「……ええ、覚えがありますわ」

「それは言い換えてみると、立場さえ問題ないのなら殿下と一緒にいたいという意味ではないのですか?」


 もし、私が悪名高いブラウン伯爵家の娘で無かったら。下品なドレスを身に纏い、夜会で男を漁る悪女だと噂されるような令嬢でなかったら。黒髪の地味な見た目で、秀でたところのない容姿でなかったら……。


「ナタリエ様は以前、婚約者との関係に悩む私に素直な気持ちを伝えることが大事だともおっしゃいましたね。他人に好意を告げられて、嫌な思いをする人はいないのではないか、と。私、改めて婚約者に素直な気持ちを伝えましたのよ。おかげでこれまでよりずっと親密になれたと思うのです」

「私も母に思っていたことを話せて、以前よりずっとオシャレを楽しめるようになりましたわ!」

「ええ、私も。義母に婚約者のことを素直に伝えて、長年悩んでいたことが解決する道筋が見えました」

「……皆さま……」


 私が偉そうに言った言葉を受け止めて、皆はしっかり行動に移し結果を出している。

 けれど、私は? あの絶望した瞬間に──()()()()では手遅れになる前に伝えようと、そう決心したのではなかったか。

 二度あった奇跡が、また訪れる保障なんてどこにもないのに。


「私は──ヴィンツェンツ様と一緒にいたい……もっと色々な事を教わって、もっとお役に立ちたい」

「ええ」

「でも、お邪魔にはなりたくない。ご迷惑をおかけしたくない……」

「そうなのですね」

「私は、だけど……触れられるなら、ヴィンツェンツ様がいい……あの方以外に、触れられたくない……っ」

「ナタリエ様、そのお気持ちを是非、殿下に直接お伝えくださいませ!」


 良いのだろうか、本当に?


「ナタリエ様のお気持ちを受けて、決めるのは殿下ですわ。良いか悪いか、相応しいか相応しくないか。それでも一緒にいたいと願い、共に障害を乗り越えていけるかどうか……。だから、ナタリエ様はまず素直に事実を伝えれば良いのです。何事も挑戦ですわよ……!」


 私の右の手のひらをカトリン様が、左の手のひらをエレノア様が優しく握ってくれる。向かいではグレーテル様が、優しく微笑み頷いてくれた。


「ええ、私、ヴィンツェンツ様に伝えてみます」


 来世まで待たずとも、ナタリエ(わたし)の人生はこれからも続いていくのだから。

 


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