初めての友人8
「確かに実感しましたわ、素直な思いを口にするって大切ですわね。恥ずかしいですけれど、今度彼に会った時には勇気を出して正直に伝えてみることにします」
カトリン様の悩みが少しでも軽くなったら良いと思う。そして今度会った時には是非、婚約者との惚気話など聞かせてもらえたらさぞ楽しいことだろう。恋バナは女の子同士の特権だ。
皆で笑い合い、ハーブティーを飲む。もう随分冷めてしまったそれを入れ直そうかと皆のカップを確認していたところ、エレノア様のふっくらした頬に目がいった。
「そういえば、エレノア様は明るい色のお洋服がとても似合いますね。いつもは紺や深緑なんかの濃い色をお召しになっていることが多かった気がしますけれど」
今彼女たちが着ているのは、ドレスを綺麗にする間だけと急遽貸し出した私の普段着だ。装飾もなく簡素なものだけれど、汚れが目立たないよう大きな柄が入っている。
エレノア様が選んだのは明るいローズピンクに小さな小花柄が全面に散らされたデザインで、肌の白い彼女によく似合っていた。
「いえ、でもほら、私は少し太っているから……普段は膨れて見えないように濃い色のドレスにしなさいと母からも言われておりまして」
「あら、全然そうは見えませんよ?」
確かにこの国の貴族令嬢には、腰が細ければ細いほど美しいとされる価値観がある。エレノア様はおそらく丸顔で童顔だから、服装によって着太りして見えやすいのかもしれない。けれども可愛らしい印象のある彼女があまり濃い色の服を着ると、少し主張が強すぎて重たい印象を感じていた。
「例えば同じ色のドレスでも、襟の形が違うだけで全く印象は違ってきますわ。エレノア様だと、そうですね……胸元が四角く広めに開いたスクエアネックですと、お顔周りがよりすっきりして見えるかもしれません。スカートのシルエットもあまり広げずすとんと落ちる形にしたり、フリルやリボンなどではなくてレースで華やかさを出す方法もありますよ」
「色ではなく形で……それはあまり、考えたことがありませんでしたわ」
「髪型も……例えばこう、前髪を少し分けてみるだけで随分大人っぽく見えると思いませんか?」
許可を取り、エレノア様の前髪を少し横に流してみる。綺麗な形のおでこが覗くと、それだけで幼い印象だった顔が大人びて見えた。
「まあっ、本当だわ! エレノア様、とても素敵よ!」
「ええ、いつもと随分印象が違うけれど、本当に似合っているわ」
友人たちに褒められた彼女は頬を染め、恥ずかしそうに微笑んでいる。
「ああ、お肌が白くて綺麗なので、今のように少しだけ頬に紅を差すと更に明るく素敵な雰囲気ですね……!」
チークの入れ方ひとつでも、見え方は随分変わってくるはずだ。ほんの少し工夫するだけであっという間にこれほど魅了が増すのだから、もっと彼女に似合うドレスを着れば周囲が驚くほどの変貌を遂げるポテンシャルがあるのではないだろうか。
明るい色の服を着るエレノア様はなんだか嬉しそうに見えたし、きっと本人も本当はそういう方が好みなのだろう。お母様も良かれと思って勧めてくるようなので、固定観念に囚われず色々な服装を試してみればきっと分かってくれると思う。
「私、これからは言われるがままに装うのではなくて……自分に自信が持てるように、似合うものを探してみたいと思います……!」
「いいですね! きっとエレノア様はもっと素敵になりますよ」
カトリン様とグレーテル様からもファッションに関する質問を受け、自分なりの意見を答えていく。かつて学校の教室でわいわい騒いでいたクラスメイトたちの会話が、こんなところで役に立つとは思わなかった。ドレスショップでお針子さんたちと話し合った内容も、それから人体の骨格の知識だってそうだ。
世界が変わっても綺麗になりたいと願う女性の願いは共通で、その美しさを保つための努力だって並々ならぬものがある。私の知識でそれらが少しでも報われるのなら、それほど嬉しいことはない。
「ナタリエ様は博識ですのね……。こう言ってはなんですけれど、本当に予想外でしたわ」
「ふふ、いつも夜会ではあんな格好をしておりますしね。そうでない時はこうして、汚れてもいいような簡素な恰好ばかりですし。お恥ずかしいですわ」
「いいえ、もう貴女の事情も聞いたのですもの。恥ずべきことはなにもないわ……やっぱりブラウン伯爵と夫人に関しては、憤りを覚えてしまうけれど」
両親に対して何かを期待する気持ちはもう残っていない。だからもう、いいのだ。今はあの家を出ても自分の力で生きていける力を付けることを考えるだけ。
「良かったらまた相談に乗ってくれるかしら?」
「私も、義母の体調について聞いていただきたいです」
「私はドレスの形とお化粧についてアドバイスが欲しいですわ」
三人の顔を順に見て、にこりと微笑みを返す。
「もちろんですわ。だって私たち、お友達になったのですから」
初めてできた友人たちも、満面の笑みを返してくれたのだった。




