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パラドックス  作者: 奴隷


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友人という名の利用

最初は、ただの相談だった。


久しぶり。元気?

ちょっと話聞いてほしいんだけど。


金の話なんて、人生で一度もしたことがない。

でも、あいつなら聞いてくれると思った。


駅前のファミレスで向かい合って、切り出した。


「実はさ、

 デリヘルの店舗、やろうと思ってて」


夢みたいな話だと思われるかと思ったけど、

あいつは否定しなかった。


「本気なら、形にしよう。

 曖昧なのは、あとで必ず揉める」


その言い方が、妙に頼もしく聞こえた。


数日後、呼ばれて行った小さな事務所。

机の上には、分厚い書類の束。


「三百万。

 出資と貸付の形。

 期限と条件は最初に決める」


中身は、


返済期限


利息


連絡が取れない場合の対応


返済不能時の処理


連帯保証と担保


難しい言葉ばかりで、正直よくわからなかった。


「返すつもりなら問題ない」


そう言われて、

“まあ、そうだよな”と思ってサインした。


さらに、

車と口座を担保にする紙。


「ここまで必要か?」と笑ったら、


「ちゃんとやるなら普通だ」


真顔で言われて、

そのままペンを走らせた。


これが、

自分で自分の首を絞める始まりだった。


三百万が振り込まれたとき、

通帳の数字を見て、手が震えた。


これで、店が持てる。


物件を探して、

女の子を集めて、

なんとか形にした。


最初は、浮かれてた。


女の子たちは若くて、

「社長」って呼ばれると、

それだけで気分が良かった。


一線を越えるつもりなんて、

最初はなかった。


でも――


愚痴を聞いて、

ご飯に行って、

「社長は優しいですね」って言われて。


一人と、

そして、もう一人。


気づいたら、

店の中で“特別扱いする女の子”ができていた。


それが、

全部の歯車を狂わせた。


「なんで、あの子だけ?」

「社長とできてるって本当?」


噂が広がって、

女の子同士がギスギスし始めた。


売上は落ちる。

欠勤が増える。

辞めると言い出す子も出てきた。


一人は、

「ここじゃ無理です」って言って、

他店に移籍した。


そのとき、

別の店の人間が絡んで、

金の話まで持ち出されて、

面倒なやり取りが続いた。


もう一人とは、

感情のもつれで大揉めになった。


泣かれて、責められて、

「奥さんいるんですか?」なんて聞かれて。


いるわけないのに、

自分でも、何やってるんだかわからなくなった。


そんな中で、

経費だけが積み上がっていく。


広告費。

移籍した子の穴埋め。

トラブルの口止め。

慰めるための出費。


気づいたら、

金が足りなくなっていた。


それでも、

誰にも言えなかった。


特に、

あいつには。


でも、

限界が来た。


「……悪い。

 もう二百万、貸してくれないか」


初めて、

本気で情けない声が出た。


少し間があって、返事。


「いいよ。

 その代わり、条件は前より厳しくする」


また、書類。


期限の短縮


利息の増加


担保の追加


回収に関する条項


頭が回らなかった。


「返すんだろ?」


そう言われて、

「返す」と答えた。


だから、

またサインした。


そこからは、

転げ落ちるだけだった。


女の子は次々辞めて、

噂だけが残る。


「社長、女に手出してるらしい」

「危ない店だって」


客も減って、

家賃と給料だけが重くのしかかる。


支払いの電話が鳴るたびに、

心臓が跳ねる。


怖くなって、

一日だけ、

誰からの連絡も返さなかった。


ただ、

頭を整理したかっただけだ。


その翌日、

知らない番号から電話が来た。


出ると、あいつの声。


「連絡が取れなかったから、

 契約に書いてある通りに進めた」


「……なに、言ってんだよ」


「保証の請求と、

 担保にした名義の手続き。

 返済不能として処理した」


頭が真っ白になった。


「そんな……

 聞いてない……!」


「全部、書いてあった。

 君がサインした」


あの紙の束が、

一気に頭に浮かんだ。


読まなかった文字。

“普通だ”って言葉。

大丈夫だと思った自分。


電話を切って、

床に座り込む。


金だけじゃない。

車も、口座も、

名義で縛ったものも。


全部、

自分で差し出していた。


逃げられない。


どこにも。


「……なんでだよ……」


初めての借金で、

初めての事業で、

初めての絶望だった。


あいつは、

何もしてない。


ただ、

約束通りに動いただけ。


それが、

いちばん怖かった。


机の上の契約書のコピー。

そこにあるのは、

自分の字で書いた名前。


思い返す。


女の子にいい顔をして、

調子に乗って、

トラブルを広げて、

金の重さから逃げて。


全部、

自分が選んだことだ。


夕方の光が差し込む部屋で、

一人、座り込む。


もう、

立て直す気力も、

逃げる勇気もない。


あるのは、

終わっていく実感だけ。


あいつの顔が浮かぶ。


真面目で、

淡々として、

感情を見せずに、

全部を“約束通り”持っていく顔。


ああ、そうか。


自分は、

最初から――


的だったんだ。


友だちだと思ってたのは、

自分だけだった。

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