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パラドックス  作者: 奴隷


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3/16

もしがあるならこんな今日かな

誕生からひと月が経過した。

このひと月で、ぼくは精算すべきことをほとんど終えた。

完全に終わったわけじゃない。まだ手を付けていない問題も、先送りにしている感情もある。

それでも、区切りとしては十分だと思えた。

やりたいことは、やれた。


未来は確実に変わるはずだ。

少なくとも、前と同じ道をなぞることはない。


次に取り組んだのは、会社の設立だった。

立派な会社にするつもりはないし、ここで一山当てようとも思っていない。

ただ、身分と肩書きが必要だった。

この国では、個人でいることは思っている以上に不便で、時に危うい。

名刺一枚で通れる扉があるなら、その方がいい。


コロナになる前に戻ってきた。

それだけで、選択肢は増える。

だから、対策として一番売れるものを買い溜めした。

必要な投資は割り振り、利益が出るまでの流れを頭の中でなぞる。

あとは、上手くやれる人を雇えばいい。

全部、自分でやる必要はない。


これで数年分のターンは終わりだ。

そう思うと、不思議なほど気持ちは凪いでいた。

あとは、つまらない毎日を繰り返しながら、自分のスキルを磨くだけ。

前の人生と同じようで、でも、どこか違う。


慣れないことを続けると、精神的な疲労感が溜まる。

書類の一つひとつ、確認の電話、誰かと交わす形式的な言葉。

どれも大したことじゃないのに、確実に削られていく。

それでも、これはやるべきことだ。

やらない理由は、もうない。


秋葉原のテナントを借りる順番も回ってきた。

前の人生で見てきた通り、コロナが広がれば価値は下がる。

そのタイミングを待って、借りる。

焦る必要はない。

知っている未来は、こういう時だけ役に立つ。


土地も買う。

リモートワークが当たり前になることも、レンタルオフィスの需要が高まることも、もう知っている。

だから準備をする。

何かを期待しているわけじゃない。

ただ、起きることに備えているだけだ。


いくつもの準備を終え、あとは結果を待つだけになった。

手帳に書いた予定を一つずつ消していくと、時間だけが余る。

静かな部屋で、エアコンの音を聞きながら、ぼくは何度か窓の外を見た。


これだけの資金を用意できたのには理由がある。

でも、それを今、書く気にはなれなかった。

それは別の機会でいい。


前の人生で、意味もなく浪費したものが、

こうして有意義に使われて、はじめて意味を持つ。

それだけで、十分なのかもしれないと思った。


もしがあるなら。

こんな今日で、いい。

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