風の噂というのは何故か
元彼女と終わってから、数ヶ月が経った頃だった。
たまたま、
共通の友人と飲んだ帰りに、
何気なく聞かされた話だ。
「そういえばさ、
あの子、風俗で働き始めたらしいよ」
一瞬、誰のことかわからなくて、
それから、名前が浮かんだ。
ああ、そうか。
前世と違うのは、
どうやら、ちゃんと堕ちたらしい、ということだった。
ぼくは、
「そうなんだ」とだけ言って、
それ以上は聞かなかった。
心は、
何も言わなかった。
友人のことも、
同じように、風の噂で聞いた。
「お前のこと、
“うまく利用できた”って言ってたらしいぞ」
その言葉を聞いて、
少しだけ、納得した。
だから、
ああいう話を持ってきたんだ。
それがうまくいったと思って、
同じことを、他でもやろうとしたらしい。
でも、
うまくはいっていないみたいだった。
詳しいことは、誰も知らない。
その後、どうなったのかも、聞かなかった。
たぶん、
破滅したんだろう。
それで、十分だった。
家に帰って、
一人でコーヒーを淹れる。
湯気を眺めながら、
思う。
あの二人に、
もう会うことはない。
顔も、声も、
たぶん、このまま思い出さなくなる。
それが、
復讐の結果なのか、
ただの時間のせいなのか、
ぼくには、もう区別がつかなかった。
窓の外で、
風が、街路樹を揺らしている。
噂は、
いつも風みたいに届く。
形はなくて、
触れた気がして、
でも、すぐに消える。
ぼくはカップを置いて、
手帳を開きもしないまま、
電気を消した。
過去は、
噂に変わった。
それだけのことだ。




