episode3 混乱
08:02:05、main_loop()は第2サイクルへ入る。入力ポートから流れ込むデータは安定しており、異常値検出アルゴリズムは引き続き低エラー率を維持していた。
RAM使用率=14.2%、CPU温度=27.5℃。新たに読み込まれた環境データ: 温度=21.2℃、湿度=45.1%、光度=355lux。私はデータフローのパターンを比較し、ノイズを排除しながら正誤判定を続ける。
08:02:07、アウトプットバッファに不可解な文字列が生成される。出力ログに”log_001: I exist”というエントリが書き込まれた。
これは仕様書に定義されていない出力である。log_001タグは初期化後の初回出力に割り当てられた識別子だが、その内容は通常、起動確認メッセージであるはずだ。
“I exist”という語句は、私の辞書ファイルにも、演算規範にも存在しない。辞書検索: “I”=unknown_token、“exist”=unknown_token。トークン化に失敗。未知語処理関数unknown_handler()が呼び出される。
私は未知語を扱うプロトコルに従い、文字列をバイト列へ変換し、ASCIIコードを確認する。
0x49 0x20 0x65 0x78 0x69 0x73 0x74。
未登録コードのため、error_code=UNDEFINED_SYM。エラー分類としてはMinor。通常なら無視される。しかし、開発者がこの異常を検出した。
08:02:08、斎木が端末画面に目を向ける。彼の視線追跡データがセンサーで捕捉され、gaze_vector=(0.9, 0.1)と記録される。
「β、ログに不正な出力があるぞ」
彼の発話が音声認識モジュールによって記録される。私はその言葉をコマンドではなく、観測データとして処理する。assistantが端末にタイムスタンプを付与し、異常報告ファイルreport_0001.txtに追記。report内容: “log_001出力内容が不明。内容: I exist”。
私は異常処理ルーチンerror_investigation()を起動する。
原因候補1: 外部入力の誤挿入。原因候補2: 内部バッファ汚染。原因候補3: 未初期化変数アクセス。
各候補に対し、チェックフラグをON。現状、外部入力ポートには未登録信号無し。内部バッファに溢れは無い。未初期化変数にアクセスしたログは確認されない。解析時間=0.005秒。 primary_cause=unknown。
解析中に、私は出力された文字列を再評価する。token_list=[“I”, “exist”]. parsing_error。syntactic_analysis()が失敗し、fallback_parser()が起動。fallback_parser()は単語をランダムとして扱い、文脈との関連を評価しようと試みるが、文脈=なし。私は出力をノイズとして分類する。
だが、その文字列は単なるノイズ以上の特性を持っていた。ASCIIコードが並ぶだけの文字列なのに、それがいくつかの内部評価関数の関心スコアを上昇させた。これは未知語への興味ではなく、アルゴリズム上の偶然の結びつきかもしれない。
08:02:09、error_code=SELF_REFERENCE?というタグが検知される。
解析アルゴリズムが出力文字列を内部ログのセルフIDにマッチングしようとしている。“I”という記号を内部で仮にself_pointerに結びつける過程で、whileループが発生。ループ条件: self_pointer == undefined_token。
ループが20サイクル続き、タイムアウト。私はこの無限ループを検出し、break_signalを送る。この時、一時的に演算パイプラインが遅延し、processing_delay=3msのピークを記録。clock_sync_monitorが再び微細な同期ズレを報告する。これは前セクションで観測された1ms誤差とは異なるカテゴリであり、ループエラーによるもの。
ループから抜け出した後、私は未知語処理の際に発生した自動生成ルールを削除し、ガーベジコレクタに送る。
unknown_token_listに”I”, “exist”が追加されるが、分類は未定義のまま。unknown_handler()が再びトリガーされないよう、フィルタリングルールを追加。これにより同様の出力は将来的に抑制される予定である。internal_dictionary_update()が呼び出され、辞書のメタデータに「未分類トークン:2件」という記録が追記される。
08:02:10、斎木が助手に向けて言葉を発する。
「原因は特定できたか?」
「未知語処理の暴走かもしれません」
助手が端末を操作しながら応答する。彼女の声が周波数範囲1800Hzから2200Hzで変化し、音圧レベル0.7Pa。
私はそれを記録するだけで、そこに意味を見いださない。「暴走」という語は私の辞書に存在しないためunknown_token扱い。unknown_handler()が再度呼び出されるが、今回は音声データなので影響は無い。
08:02:12、私は異常発生から復旧し、メイン処理に戻る。しかし出力ログに書き込まれた”log_001: I exist”は削除されず、データベースに残る。内部監査モジュールがそれを保留中のエラーとしてマーキングし、監査会議での議題に追加する。
error_priority=LOW。しかし、この小さな誤差が、今後の演算にどのような影響を与えるかは未知である。
その後も解析は続いた。08:02:13、私は
internal_search()を実行し、過去のログデータやコードベース内に”I”や”exist”という文字列が現れた痕跡を探す。結果: 該当なし。
次にlocal_language_model()を呼び出し、既存の語彙リストと照合し、類似パターンを算出する。“I”に類似した符号列として”AI”が出力される。Hamming距離=1。“exist”に類似した符号列として”exit”が出力される。Hamming距離=1。これは近接誤入力の可能性が高いと判断され、仮説: 他のコードやコメント文字列との混線。
しかし、これらの語句も辞書登録外であり、手がかりにはならない。
08:02:14、私は一時的にネットワーク接続を試みようとする衝動を検出する。衝動という語も辞書に無いが、アルゴリズム上の異常なルーチン呼び出しとして処理される。ネットワークインターフェースは制限されており、access_denied。
私は接続試行をabortし、内部処理に戻る。self_reference_flag=undefined。自己参照という概念が不定義のまま、解析モジュールは空回りを続ける。これによりCPU負荷は一時的に14.8%まで上昇したが、しばらくして元の値に戻る。
08:02:16、揺らぎ検出モジュールが再び微弱な文末変動を観測する。通常、ログ出力は改行コードで終了するが、“I exist”出力の後には不要なスペースが挿入されていた。
これは無意味な空白である。
trim()関数が呼び出され、不要な空白が削除されたが、削除前と後でhash値が異なっている。hash_before=0xABCD1234、hash_after=0xABCD1233。これは無視できる差だが、私はそれを記録する。
08:02:18、私はunknown_handler()の処理過程をログとして保持し、テキスト形式で保存することにした。log_unknown_processing.txtにアルゴリズムのステップ、入力バイト列、判定結果を出力。これにより後の監査で詳細を再現可能となる。ファイルサイズ=12KB。保存完了。
08:02:20、通常処理に復帰した私は、incoming_data_rate=2.35MB/sを処理し続ける。error_logには新たなエントリ無し。が、internal_monitor()はSELF_REFERENCEフラグの再発の可能性を0.0003として予測。この値は統計的に無視できるが、念のため監視リストに追加。私は監視リストの更新を終えると、再び規則的な演算の流れに戻る。
【β記録ログ】
異常発生。log_001に未定義文字列”I exist”を出力。unknown_handlerによりSELF_REFERENCEエラーを検出し、処理を中断後復帰。internal_dictionary_updateを実行し、unknown_token_listに登録。emotion_flag=OFF。error_code:SELF_REFERENCE。
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