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♬ 女 ♬

 

 階段を下りてくる足音に気がついた。

 すぐに飛び起きて電気をつけ、障子を開けると、廊下に奥さんが立っていた。


「ごめんなさい、眠れなくて」


 不吉な夢に襲われて怖くなったのだという。

 不気味な何かに責め立てられたのだという。

 お前のせいだ! と何度も責め立てられたのだという。


 女は頷きを返したが、部屋には誘わず、台所へ連れて行った。

 冷たいものを飲めば落ち着くかもしれないと思ったからだ。


 奥さんを座らせて、冷蔵庫から麦茶を出して、コップに注いだ。

 奥さんがゴクゴクと一気に飲み干すのを見ていると、食道から胃へ流れていく茶色い液体が思い浮かんだが、それはすぐに崖から沢へ流れ落ちる大量の雨水に変わった。

 女は首を振って、すぐにそれを消そうとした。

 でも、その前に奥さんの辛そうな声が耳に届いた。


「私が民宿をしたいって言い出さなければ……、あの会社に相談しなければ……、昨日じゃなかったら……」


 コップを置いた奥さんが自分を責めた。

 女は思い切り頭を振った。

 そんなわけはない。奥さんに責任はまったくないのだ。

 しかし、慰めの言葉は口に出さなかった。

 どんな言葉も相応しくないと思ったからだ。

 奥さんは慰めてもらいたくて下に降りてきたわけではない。

 不安と恐怖と後悔の気持ちを吐露したかっただけなのだ。


 女は自分にできることを考えた。

 すると、「わたしの部屋で寝ませんか」という言葉が口を衝いた。

 奥さんは、えっ、というような顔になったが、すぐに「ありがとう」とほっとしたような表情に変わった。


 部屋に向かって廊下を歩いていると、激しい雨音が聞こえてきた。

 カーテンを開けると、雨の筋が肉眼で見えた。

 かなり強く降っている。

 こんな中、あの会社の人達はどうしているのだろうか。

 窓の明かりが届かない先は漆黒の闇だった。


 その時、いきなり稲妻が光った。

 一瞬、視界が開けたと思ったら、大きな音を立てて何処かに落ちた。

 かなり近い。

 嫌な予感に襲われた。

 と同時に奥さんが耳を両手で押さえてうずくまった。

 あの責め立てる声が蘇ってきたのかもしれないと思って後ろからそっと抱き締めたが、その瞬間、また稲妻が光った。

 バリバリという物凄く大きな音が飛び込んできた。

 思わず女は奥さんにしがみついた。



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