ファンタジーショートショート:捕らえられた姫
「キャー!」
ガラスの割れる音と絹を裂くような女性の悲鳴の後、野太い笑い声が王城に響き渡った。
「はははは!姫はこの魔王が貰っていく!取り返しに来るなら来てみるがいい!返り討ちにあうだろうがな!」
警備していた近衛兵達が姫の寝室に飛び込むと、そこには巨大な怪鳥とその足に捕らえられた姫がいた。
「な!姫様!」
「姫様をはなせ!」
兵士たちが立ち向かおうとするも、怪鳥は姫を捕らえたままどんどん高度を上げ見えなくなってしまった。
「なんということだ・・・」
兵士達からの報告に項垂れる国王。
「直ぐに姫の救出部隊を結成し、救出に向かいます!」
「ならばその者たちを勇者とし、魔王討伐に向かわせるのだ・・・」
こうして勇者の選別やらでバタバタと各々が忙しく動き出した。そんな中、王だけは玉座に座ったままポツリと「これでよかったのだな?娘よ」とこぼした。
「姫様に置かれましては、この部屋を自分の部屋だと思ってお使いください・・・」
連れ去られた姫は、それなりに調度品も整った部屋に軟禁されることになった。部屋は良いのだが、扉も窓も全て鉄格子で逃げられなくなっている。
「姫様もここから逃げ出そうと思わないでいただきたい。我ら魔王軍の中には血の気も多い輩も多数居ります故・・・」
ここまで案内してきた執事風の魔族がニコリとほほ笑む。
憔悴しきった様子の姫にはそれに返事をすることすら億劫だった。
その魔族も去ってこの部屋に姫が1人だけになった。
「まさか本当にここまで上手く行くなんて・・・」
先ほどまでの憔悴が嘘のように大きく伸びをするとニヤリと笑みを浮かべた。
「姫だからなのかわからないけど・・・身体検査もしないのね。ありがたかったけどね」
姫がドレスを脱ぐと、そこにはぴっちりとして体のラインが見えるエナメルスーツの姫が居た。
そして脱いだドレスから、短剣や小さな小瓶に入った液剤、赤や黄色と言った様々な効果を生み出すアクセサリー達それ等が次々に出てくる。それらを全て自分に装備し終えると、窓の鉄格子をあっという間に外し終えると外へ乗り出した。
「待ってなさいよ魔王。私が息の根を止めてやるわ」
「やっと姫を我が手に・・・」
魔王城の玉座に座り、姫の確保の知らせを受けてからはニヤニヤが止まらない魔王であった。
「早速愛でに・・・」
立ち上がりかけた魔王。そこに走りこんできたのは、側近であった。
「ま、魔王様!」
「どうした騒々しい!」
「四天王様達が全員死んでおります!」
「な、なんだと!もう姫を取り返しに来たのか!」
「そ、それが皆背後を取られてからのひと突きで即死したようでございます!」
「そんなことがあるものか!我が四天王と名付けたやつらぞ!そんなあっさり死ぬわけが・・・」
「と、とにかく魔王様敵襲でございます!」
「いかん!姫は・・・姫はどうしている!」
「ここに居るわよ」
何?と言う前に魔王の後頭部に短剣が突き刺さった。そのまま崩れ落ちる魔王
「こんなにあっさり倒せるなんて・・・今までの勇者はなにしていたのかしら?」
余りの出来事に理解が追い付かない側近であったが絞り出すように言葉を吐いた。
「そんな聖剣以外では傷一つ付かない魔王様が・・・」
「あら?聖剣なら刺さっているじゃない!」
魔王に刺さっていた短剣がまさかの聖剣であったのだ。
「聖剣なんて大きすぎるから短剣にしてもらったの。お陰で四天王から魔王までひと突きよ」
「おのれ!敵襲だ!魔王様が討たれた!」
側近の叫びに魔族やモンスターが次々と現れる。
「せめて魔王様のもとに連れて行ってくれる!」
「嫌よ!と言うかそんなこと言ってる余裕あるかしら?」
「何・・・?」
次の瞬間あちこちで爆発が起こり、魔王城全体が揺れる。
「上手く行ったわね」
姫が胸に着けていた赤い宝石のペンダント。それが煌々と光り輝いている。
「あなた達が、今まで奪ってきた財宝の中にこんな赤い宝石のアクセサリーとか調度品はなかったかしら?それ全て爆発するように仕掛けられていたの。この私の持つペンダントが起爆装置ってわけ」
揺れ、崩れ、魔王城に居た者たちがまともに動けず、城の下敷きになる中姫は悠々と正門から脱出したのだった。
「遅かったじゃない。勇者ももう少し精進することね?あ、魔王倒しちゃったからまあ・・・いいのかしら?」
急遽編成された勇者含む魔王討伐軍が出発して一番手前の町に差し掛かる前に姫と合流することとなった。討伐軍全員が頭に???となりつつ姫様の本当の力に戦慄した。全ては姫が計画し、父である国王を説き伏せて成った計画だったのだ。
この後、この国の女王となった姫は魔王を倒したことをきっかけに覇権国家の道を目指すのであった。