ファンタジーショートショート:アレルギー
「ぐむぅ・・・」
玉座に座り、悪化していく状況に思わず唸ってしまう。どうしてこうなった。吾輩が魔王として君臨して早5年。順調に領土を拡大し続け、最強と言われた我らが魔王軍が’’勇者’’と呼ばれる人間に大敗を喫したのが半年前・・・それからあれよあれよと言う間に領土を削り取られ、今ではもう殆ど残っておらぬ。
「あの聖剣と光魔法とか言う勇者だけが使える武器が厄介よの・・・」
何処から現れたのかは分からないが、勇者が聖剣と光魔法の使い手であるという情報は届いている。
「本当に魔王と勇者は正に光と影と言う事か・・・」
さて、どちらが勝つのか。このままの勢いで勇者が攻めてきたとき吾輩の力で止められるものか・・・
「いかん。弱気など吾輩らしくもない・・・」
魔族を統べる王としてこんな弱気な面等見せるわけにもいかなん。しかし、あれにどう対抗すべきか。
「魔王様!魔王様!発見しました!」
堰を切って玉座の前に飛び込んできたのは、白衣姿の一見人間に見えてしまう学者肌の魔族であった。肌も肌色で最初は、人間かと思ったが魔族で違いなく、その見た目で非常に肩身の狭い生活をしながらも勉強に研究に励み続けた男であった。最初「働かせてください!」といきなり来た時には人間かと勘違いして殺しそうになってしまった。それでもその後の働きぶりから非常に評価も高く。吾輩も信頼している部下の一人である。
「どうした?今更何を発見したというのだ?」
信頼はしているが、戦闘に出せる部下の殆どが戦死してしまっている中で戦闘職でないものの話などどうしても素っ気なくなってしまう。
「お前の言っていた公衆衛生の概念などで非常に魔族たちの生存率が高まったことなどは感謝しているが、これ以上の発見だと?」
「その通りでございます!勇者のもつ聖剣と光魔法その2つが何故我々に効果的なのか判明いたしました!」
「んん?どうゆうことだ?我々は魔である存在だから光に弱いそうゆうものではないのか?」
「調べた結果、それも弱いというよりアレルギーであると診断することが出来ました!」
「アレルギー?・・・なんだそれは」
たまにこの学者知らない単語を使う。こやつ魔族ではあるが、前世か何かの記憶を持ったままなのではないかと疑っている。そこら辺は話してくれぬが、それでも益になることをしているので目をつぶっている。
「はい!アレル物質を取り込むことにより、我らの中にある免疫機能が異常をきたしてしまうことです。勇者の聖剣と光魔法は我らが反応するアレル物質の塊のようなものなのです!」
「なんと・・・」
その塊と言われるとなんとも嫌な気分になるな。
「同輩の死体を調べたところその症状などがまさにそのようで・・・色々血液等を用いて調べた結果でございます!」
こやつの知識と努力には称賛せねばならぬな。
「それで、それに対抗するにはどうしたらいい・・・?」
「お任せください!既に対抗策は練っております!」
「おぉぉぉぉ!」
聖剣で迫りくる魔族をバッタバッタと切り倒す。ここまでの道のりは長かった!村人であった僕が、女神様からのお告げによって勇者となり聖剣と光魔法を与えられ、魔王の占領地域を少しづつ解放して半年。やっと魔王城にたどり着いた!残る大物は魔王ただ一人!聖剣を持つ手にも力が入る!
「ここが玉座か!魔王覚悟!・・・は?」
そこに居たのは、全身を素材不明な白い布で覆われた生き物であった。
「よく来たな勇者!ここが貴様の墓場だ!」
この発言で魔王だとやっとわかる・・・でも本当に魔王か?
「ま、まあいい!この聖剣と光魔法でとどめを刺す!」
だが、その聖剣を振るえども魔法をいくら当てようとも魔王には全然効いていないようだった。
「そんなバカな!魔王を唯一倒せる武器だぞ!」
「ふははははは!そんなもの克服したわ!」
光魔法も聖剣も効かない勇者に勝ち目はなく、そのまま魔王に倒されてしまった。
その学者の様々な対策によって抗アレルギー剤を作り出し、服用した魔族や日焼け止めクリームなどでテカテカになった魔族。そして魔王と同じように防護服を着こんだ魔族などによって人類は衰退の一途を辿る。魔王が老いるまでその状況が維持されるのであった。