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君は強いひとだから  作者: 冬馬亮
9/58

14と19




 テンプル伯爵が探してきた仕事先の中からラエラが選んだのは、ある貴族のご夫人専属の世話係だった。


 爵位を既に息子に譲り、今は夫婦で別邸に移って悠々自適の隠居生活を楽しんでいるご夫婦で、その別邸がラエラの職場だ。


 最近視力が落ちてきた夫人の為に、新聞や好みの本を読んで聞かせるのが主な仕事で、他にも散歩に付き添ったり、誘われれば一緒にお茶をしたりする。

 世話係、と言っても実質は話し相手のような気楽な仕事内容だ。

 


 実は最初、ラエラは候補の中から王城務めの侍女に挑戦するつもりでいた。


 だが、『城は爵位持ちや有能な平民が多く働いているし、不特定多数の人の出入りもある。新たな出会いを求めるなら理想的な場所だ』という父の言葉を聞いて、ほとんど反射的に申請用紙をテーブルに戻してしまった。



 ラエラは出会いを求めていない。新たな恋を、良縁を欲していない。少なくとも今はまだ。


 貴族令嬢の結婚適齢期は短いと分かっている。早く新たな相手を見つけて両親たちを安心させてやるべきだと、頭では理解しているのだ。理解していて、それでも。



 自由にしていいと父は言った。ならば、もう少しだけ余韻に浸りたいとラエラは思ってしまうのだ。

 アッシュの裏切りと婚約破棄で受けた衝撃を、一瞬で別のものに塗り替えてくれたヨルンのあの言葉の余韻に、もう少しだけ浸っていたいと。



 そう思って最終的にラエラの仕事先として選んだのが、ある貴族夫人―――前ラムナスハルト公爵夫人のお世話係だった。



 前ラムナスハルト公爵夫妻は、実はアナベラの祖父母である。いきなり結婚の話がなくなって、卒業後の身の振り方に困っていたラエラの為に、アナベラが口利きをしてくれた仕事だ。



 仕事先の別邸は静かで、使用人は厳選されているお陰で数が少ない。

 前公爵夫妻の性格を反映してか、いつも穏やかな時間が流れており、ラエラの心を癒すのにもってこいの場所だった。





 



 あれから、ラエラはヨルンに会っていない。


 実は、ヨルンの14歳の誕生日が近づいてきた頃、ラエラは悩んだ末に贈り物を準備する事に決めた。

 けれどロンド伯爵家で公的なパーティは開かれず、なのにわざわざラエラの名で贈るのは躊躇され。


 結局、贈り物はヨルンの誕生日を半年過ぎた今もまだ、ラエラの手元に残ったままだ。



 ―――こんな風に、徐々にヨルンさまとの距離も開いていくのかしら。



 そんな事を考えるたび、ラエラの胸がつきんと痛んだ。


 覚えがある痛みだった。リンダを大事にするようになったアッシュを見るたびに、胸に感じていた痛み。アッシュの時でもう慣れたと思っていたのに、今もまだこんなに苦しい。




 ―――ヨルンさまは14になったけれど、今度は再来月にわたくしが19歳になる。



 ヨルンの言う通りだった。数か月の月数のズレはあるとしても、基本的に5歳の年の差はいつまで経っても縮まらない。




 ―――僕が18歳になった時、あなたの隣には素敵な夫が立っているのでしょうか―――




 そんな事は誰にも分からない。いるでしょうとも、きっといないでしょうとも言えない。



 だって、人の心とは変わるものだ。アッシュがラエラに別れを告げたように。ラエラがアッシュを見限ったように。


 そう、6年も続いた婚約があっさり破棄となり、予定されていた結婚が立ち消えになったように。




 アッシュとリンダだって―――




 そう思うと、ラエラは自分の中に今あるこの感情とどう向き合ったらいいのか、分からなくなる。




 だって未だ、アッシュ(あの)とリンダ(二人)が結婚したという知らせは、どこからも来ていないから。












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