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君は強いひとだから  作者: 冬馬亮
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だから、ちゃんと



 全てを誤魔化す訳にはいかないけれど、全てを(つまび)らかにする必要はない。



 そう思ったヨルンは、ラエラに説明する時、敢えて報告の内容を一部曖昧にした。







「そうなのですね・・・」



 ヨルンの話が終わると、ラエラは頬に手を当て、考え込んだ。


 

「・・・では、お義父さまのお怪我の事は、妊娠中のわたくしがショックを受けないように黙っていらしたのね?」


「はい。精神的なショックが致命的な事故につながる事もあると聞きましたので」


「確かに、先生がそう仰っていたのを、わたくしも覚えていますわ」



 ラエラは隣室の―――2人の愛する息子がいるであろう子ども部屋の扉の方へ、視線を向けながら言った。



「出産するまでの期間、わたくしが心穏やかに過ごせるよう気を遣ってくださったのですね。ありがとうございます」


「妻を大切にするのは当然の事です」


「ふふ、嬉しいですわ」



 ラエラは手を伸ばして、そっとヨルンの頬に触れた。

 ラエラが納得してくれたと安堵したヨルンは、目を瞑って、ラエラの手に顔を寄せた。



 ラエラの温かく柔らかい手が、ヨルンの頬をそっと包み込み―――




「・・・うにゅっ!」



 ぎゅむ、と頬の肉をつまんだ。


 予想もしなかった衝撃に目を見開いたヨルンは、なぜか頬を膨らませている目の前の妻を見下ろした。



「・・・リャエリャしゃま?」



 けっこう思い切り引っ張られているせいで、少し低めの格好いいヨルンの声が、情けない音を発している。


 けれど今のラエラにそれを気にする素振りはない。ただ真面目な顔で、ヨルンを見上げて言った。



「・・・本当に、それだけですか?」


「ひょんとうに、てょは」


「アッシュが暴れて、巻き込まれたお義父さまが片目を失明する大怪我をした・・・確かに大ごとです。でも、それでわたくしの流産が心配になりますか? 大切な家族ですから、すごく驚いたとは思うけれど」


「・・・」


「本当にそれだけが理由ですか?」


「・・・しょうれす」


「まあ」



 ラエラのもう片方の手がヨルンの無事な方の頬に伸び、ぐいっと引っ張られた。



「リャエリャしゃま、いひゃいれす」


「痛くしているのですから、当たり前です」


「・・・ひゃい、すみましぇん」



 ラエラはヨルンの頬から手を離すと、じっとヨルンを見上げて言った。



「ヨルンさまはいつも、わたくしとしっかりと目を合わせて話をしてくださいますの。疲れていても、忙しくても、慌てている時でも必ず」


「は・・・はあ」


「でも、さっきわたくしの質問に答えた時のヨルンさまは違いましたわ。目が合っているようで、実は少しズレた場所を見ておられた。先ほどお義父さまが怪我をした話の時もそう。ヨルンさまと一度もちゃんと目が合いませんでした。どうしてなのでしょう」


「・・・」


「あらあら、もう一回、頬を引っ張った方がいいかしら?」



 両手の指をわきわきと動かしながら、ラエラは言った。

 ラエラはもう確信している。そして引く気がない。となれば、ヨルンが観念するしかない。



「・・・ラエラさまには敵いませんね」



 苦笑するヨルンに、ラエラは続けた。



「尋問みたいな事をしてごめんなさい。でも、もし執務や王城でのお仕事の話だったら、わたくしだって無理に聞き出そうとはしませんわ。でも、アッシュやお義父さまの事なら、ヨルンさまだけに背負わせたくないのです」


「・・・それは、でもラエラさま、僕は・・・」



 それでも、と続けようとしたヨルンの唇を、ラエラが指でそっと封じた。



「ヨルンさまが、わたくしを心配してそうして下さったのは分かっているの。でも、お忘れではないかしら、わたくしは強いのよ? 芯があって、しっかりしていて、強い人なの。ヨルンさまはそう言って、わたくしの事を褒めてくれたでしょう? それとも、あれは嘘?」


「嘘なんかじゃ・・・」


「ええ、分かっていますわ。ヨルンさまは、わたくしを心配して下さっただけ。ヨルンさまにいつも守ってもらえてわたくしは本当に幸せです。でも、守られるだけでなく、わたくしもヨルンさまの事を支える人になりたいのです」



 だから、とラエラは続けた。



「森で何があったのか、ちゃんと教えて」











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