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君は強いひとだから  作者: 冬馬亮


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吉事の後の




「おはようございます、ラエラさま。体調はどうですか? 今日は香りのいいハーブティーを淹れましたよ」



 最近のヨルンは、いつも朝目覚めた時には既にベッドを出ていてラエラの傍にいない。


 けれど、ラエラはそれを寂しいとは思っていない。だって、タイミングを測ったかのように、ラエラが目覚めると同時に、ヨルンが扉を開けて入って来るからだ。

 まるで専属の執事のように、トレイにティーポットとカップを乗せて、にこにこと甘やかな笑顔を浮かべながら。



 これは、数か月前に加わったヨルンの新しいルーティンだ。


 実は少し前、ラエラが体調を崩し、ヨルンをたいそう心配させた時期があった。


 原因不明の倦怠感、寝ても寝ても眠気が取れず、食欲もなくなり、気分も不安定になったのだ。


 その時のヨルンの慌てぶりは、それはもうすごかった。


 難病かもしれない、いや新種の病気かも、王国一の名医を呼ばなくてはと騒ぎ出した。

 すると、年配の侍女長がすっとヨルンの前に出て、彼の耳元でごにょごにょと何かを囁いた。

 え、とヨルンは顔を赤くし狼狽えて。よろよろと数歩下がって、壁にどん、とぶつかった。それから、少々挙動不審になりながらも、ラエラ専属の医師を呼ぶよう指示をしたのだ。ラエラ専属、そう女医である。



 結果は侍女長の推察通り。ラエラの妊娠が判明し、屋敷中は喜びで包まれた。



 結婚して10か月目の吉事だった。



 不調の理由が分かったヨルンは少し落ち着きを取り戻した。


 とはいえ、やはりろくに食べ物を口に出来ず、吐いてばかりのラエラの姿を見ているのは、ヨルンにとても堪える事で。


 何かラエラの気分を変える事が出来ないか、そう思って始めたのが、お茶のサービスだった。

 朝ラエラが寝ているうちにベッドから出て、清涼感のあるハーブティーを用意し、目覚めた妻に手渡す―――思いの外ラエラに喜ばれ、定着したルーティンだ。


 最近やっと悪阻が治まり、食べ物も受け付けるようになってきた。だが、ヨルンの心配性は絶賛継続中で、今もこうして毎朝のお茶のサーブは続いている。

 今はもう清涼感にこだわる必要はない為、香りのよいハーブティーや滋養のある薬草茶など、種類は様々になった。



 今日ヨルンが差し出したカップからは、ふわりと花の香りがした。甘すぎず、ほのかに香るそれに、ラエラの口元が自然と緩んだ。



「いつもありがとうございます、ヨルンさま」


「今日は王城での仕事が午後からなので、午前中はラエラさまの側でゆっくり過ごせます」


「本当ですか? 嬉しいです」


「悪阻の間はずっとベッドにいる事が多かったですからね、そろそろ散歩などで少し体を動かすようにと医師が勧めていました。よかったら、この後少し歩きませんか?」


「そう言えば、もうずっと庭の花を見ていない気がします」


「今が見頃の花がたくさん咲いてますよ。きっと庭師のトムも・・・」



 と言いかけたヨルンの言葉は、部屋の扉をノックする音で中断された。



「失礼します。旦那さま、こちら至急の手紙が届いております」



 執事長が、申し訳なさそうに扉を開け、小さなトレイの載せられた手紙をヨルンへと差し出した。



「至急?」



 ヨルンは手紙を受け取って差出人の名前を確かめると、眉を顰めた。


 その場で開封するのは不都合があったのだろう、ラエラの頬に唇を落とし、少しの間執務室に行ってくると言って出て行った。



 なるべく早く戻ると言って出て行ったが、あの様子では暫く時間がかかるのではないだろうか。そうラエラは思っていたが、予想より早くヨルンはラエラのいる寝室に戻って来た。


 だがその表情はどこか固い。


 何かよくない事が起きたのだとラエラは悟った。










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