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君は強いひとだから  作者: 冬馬亮


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たぶん、よくある新婚夫婦の光景



 濃厚な蜜月期間は、ヨルンに与えられた二週間の休暇が明けると同時に終わった。


 終わったと言っても、仕事の為に登城しなければならないから四六時中イチャイチャ出来なくなっただけで、普通の新婚夫婦らしい生活は送れている。ただ、ヨルンにとっては全然もの足りないだけだ。




「名残惜しいですが、行ってきます。必ず定時で帰って来ますから」


「いってらっしゃいませ。帰りをお待ちしてますね」



 頬にちゅっと軽いキスを落としたヨルンは、名残惜しそうに何度も何度も振り返りながら、馬車へと向かう。

 それから、ようやく馬車のステップに足をかけ、最後にダメ押しでもう一度振り返った。


 馬車が走り出しても、ヨルンは窓から顔を出し、愛しい妻に向かって手を振り続ける。仕事の為の登城の筈、なのに、まるで死地に赴く兵士のような悲壮感だ。



 これが毎朝毎朝、ルーティンと化している二人の朝のやり取りである。



「奥さまは、相変わらず旦那さまから愛されてますね」



 ラエラの後ろに立っていた侍女が、微笑ましげに目を細めた。


 登城する日々が始まってもヨルンの溺愛は変わらない。

 さすがに、仕事のある週中は明け方近くまでゴニョゴニョする事は控えるようになったものの、あくまで控えるだけだ。

 シない(・・・)という選択肢は、ヨルンの中にない。


 第三王子に重用(酷使)され、常日頃から忙しくしているヨルンだが、どれだけ疲れていても、ラエラと熱い夜を過ごす日々は変わらない。

 ヨルンにとってラエラは明日を頑張る為の活力剤、曰く、ラエラなしでは生きていく気力も湧かないらしい。



 そんなラエラは、夫を見送った後は当主夫人としての仕事に取り掛かるのがいつもの流れだ。


 夜の睡眠時間が足りなめな分、侍女や執事らによって強制的に休憩を取らされつつも、帳簿の確認や、届いた手紙の仕分け、使用人たちからの報告を聞いたり、それに応じて指示を出したりなど、てきぱきと家内を取り仕切る。



 そうして今日もいつものように手紙の仕分けをしていると、ヨルン宛ての手紙の中に、ある施設からのものがある事に気づいた。医療関係とすぐ分かる施設名、けれど初めて見るそれにラエラが首を傾げていると、執事が口を開いた。



「そちらは、ヨルンさまが出資をされた医療研究施設でございます。薬の開発や新しい治療法の研究などをテーマにしていると聞いております。おそらく研究経過の報告か、運営状況の知らせのどちらかだと思いますが」


「まあ、ヨルンさまは、お仕事の他に投資もなさっているのね」



 執事の説明に、ラエラはほっと安堵の息を漏らした。

 名から医療関係機関であると察し、もしやヨルンが病気か何かではないかと心配になったからだ。


 ヨルンはラエラがいないと生きていけないと言うけれど、それはラエラも同じだ。

 ひとりで生きていける強いラエラなど、もうどこにもいない。もしヨルンに何かあったら、ラエラはきっと、生きる気力を失うだろう。



 ただの仕事上の手紙、そうと知ったら何の心配もない。夜になって城から戻って来たら確認できるよう、ヨルン用のトレイに彼宛ての手紙類を全て置き、その後は他の仕事に取りかかった。





 夕刻。


 約束通りに定時で城を引き上げたヨルンが、いつもの時間に馬車から降りてきた。



「ラエラさま、ただ今帰りました。寂しくて死ぬかと思いました」


「ふふ、お帰りなさいませ。ご無事でなによりです」



 出迎えたラエラの頬に唇を落としたヨルンは、外衣を執事に預けた後、一旦自邸の執務室に入った。夜はなるべく多くラエラと過ごしたい。その為に夕食までに処理できるものを片付けておくのだ。



 幾つかの書類に目を通し、それからトレイの上に置かれた自分宛ての手紙類へと手を伸ばす。

 その中に、例の(・・)医療研究施設からの手紙を見つけた。



 まずはそれを開封し、文面に黙って目を走らせる。 



「バイツァー・コーエンが・・・そうか」



 読み終わると、ヨルンは手紙を封筒ごと暖炉に投げ入れ、マッチで火をつけた。ラエラの目に入ったら、余計な心配をかけてしまう。



「2年と4か月か、かなり保ちましたね」




 報告書は、あっという間に灰になった。











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