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君は強いひとだから  作者: 冬馬亮
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結婚前の一波乱 ⑥




「今日はれんらく係がちがう所にいたから、いつもよりヨルンさまに伝わるのに時間がかかって・・・僕、あわてて花瓶で殴りに来ちゃいましたよ!」



 ぐしぐし泣いている男の子は、文句を言いながらもグスタフが持っていたナイフを拾うと、ラエラの両手の縄を切ってくれた。



「ええと、その、ごめんなさいね? そしてありがとう、助けてくれて」


「・・・いえ、ぶじでよかったです。ホントに」




 すん、と鼻をすする男の子は、ソルと名乗った。



 ラエラから金を盗もうとした件で捕まったソルと彼の妹は、ヨルン預かりになった後、密偵として働くようになったという。


 密偵と言っても、ヨルンに指示された人物を見張ったり、他の見張りからの連絡を中継ぎしたりなど危険度は低い。


 ソルの場合、見張りの時は基本、妹とペアで、顔を覚えられないように交代で行う。要所要所に連絡係が配置されていて、何かあったらすぐにヨルンまで報告が行く仕組みだ。

 ただ、その連絡係の配置は見張りなどの動き方によって変更がある。重要箇所に、より多く人員が割かれるのだ。


 ラエラは当然、最重要人物扱いだ。けれど今日のお出かけはヨルンには内緒だった為に係の配置はいつも通りだった。


 だから、グスタフがラエラを拉致した時、連絡はいつも通りのスピード―――つまり最短ではヨルンに伝わらなかった。


 ソルはグスタフの見張りをしていて、偶然ラエラ拉致の現場に遭遇しただけだったからだ。



「グスタフ・ケイシーの見張りって・・・見張らなければいけないような何かがあったってこと?」



 そうラエラが尋ねた時、外から馬の蹄の音といななきが聞こえ、会話が途切れた。


 耳をすませていると、複数の人の話し声と、乱暴に扉を開ける音が聞こえてきた。

 それから、こちらに向かって足早に近づいて来る靴の音。




「ラエラさま! ご無事ですか⁉︎」



 ソルが乱入してグスタフをやっつけてからわずか10分後。ラエラがグスタフの家に連れ込まれてからでもまだ約一時間後。


 現れたのは騎士ではなくヨルンで、ラエラは返事をする間も無く、ぎゅうぎゅうと抱きしめられたのだった。










「・・・このクソ男はですね、ラエラさまにフラれた後、平民の娘と結婚したんです」



 げしげし、と気絶しているグスタフの頭を蹴りながら、ヨルンは言った。



 ちなみにグスタフの頭には、既に2つのたんこぶがある。ヨルンが到着する前にグスタフが目を覚ました為、ソルがもう一回花瓶で殴ったからだ。




 行きつけの食堂で働いていた平民の娘と結婚したグスタフは、予定通り手柄を立てて出世する・・・事はなく、平騎士のまま一年と半年が過ぎた。


 食堂の娘は最初はもちろんグスタフに好意を持っていたのだが、家は不在がちで給金もろくに渡さず、たまに帰れば平民の血だと妻を下女扱いするグスタフに、一年経つ頃には既に愛想が尽きていた。

 そしてある日、サインした離婚届だけを残して出て行った。グスタフがそれに気づいたのは久しぶりに帰宅した日、妻が出て行った6日後だった。



 新しい嫁を見つけようとしたが、食堂を介した平民同士の情報網はなかなかに広く、人気の騎士職でも新たな妻の成り手は見つからない。これでグスタフが美形だったら少しは違ったのかもしれないが、残念ながら彼は至って並の顔立ちだった。



 その頃、グスタフはラエラがヨルンと婚約した事を知る。自分をフッたラエラが、5歳も下の次期伯爵当主と婚約したと聞き、猛烈な妬みと怒りに襲われた。


 そうしてグスタフがラエラの周辺を嗅ぎ回るようになり、それに気づいたヨルンが、動向を探る為に監視を付ける事にした。そのうちの一人がソルだった。



 多少の付き纏い行為はあったものの、ヨルンが手配した者たちにより、ラエラに気づかれる事なく全て防げていた。


 だが、そんなグスタフに近づく者がいた。



 その者と接触してから、グスタフの付き纏い行為がエスカレートしていった。ヨルンはラエラ周辺の警護を強化し、その家に調査を入れていたところだった。



「僕のラエラさまに手を出した事を後悔させてあげましょう」



 にこやかに笑みつつ、ヨルンは私兵たちに命じてグスタフを連行させた。




 グスタフの犯行動機が判明したのは、その翌日。




 グスタフは、ヨルンの妻、つまり次期伯爵夫人の座を狙う家から依頼を受けていた。


 依頼元は子爵家で、娘がヨルンに懸想していた。

 ラエラを婚約者の立場から追い落とす事に成功したなら、報酬として現金とその家での専属護衛の役職を与えると提案したそうだ。



 当座の金の確保と安定した職の提案に、浅はかなグスタフは迷いなく頷いた。







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