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君は強いひとだから  作者: 冬馬亮
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堕落





 アッシュが森の開拓監督を任命されて三年目の終わり頃。



 開拓の進捗状況を見る為にロンド伯爵が来訪するという知らせが届き、アッシュは大いに慌てた。



 自己憐憫と自棄に陥っていたアッシュは、日々暴飲暴食に耽るだけで、長いこと監督の仕事を放置していた。リンダとバイツァーの監視も当然していない。


 アッシュの記憶では、家が二、三軒建てられるくらいの広さまで土地を切り拓いたのを覚えている。あれはたぶん、二年目の始めだったか終わりだったか。



 ―――あれから開拓はどのくらい進んでいる? まさかあの二人、僕がいないからとサボったりしてないだろうな?



 森に移動してすぐの頃、アッシュはかなり念入りに二人に躾を施した。

 あまりに念を入れ過ぎたせいで二人が数日動けなくなり、早速開拓任務に影響が出た事をアッシュは覚えている。躾はほどほどにしなくてはとアッシュが学んだ一件だった。


 それは兎も角、躾の効果はばっちりで、それ以来、二人は大人しく働き、アッシュの言う事もよく聞くようになった。


 だから問題ない筈だ。監督も監視もしなくなったこの一年・・・いや、一年ともう少しあったかもしれないが、きっと心を入れ替えた二人は、真面目に仕事をしていたに違いない。



 ―――そうに違いないが・・・念の為に確認しておくか。



 長く続いた不摂生な生活で弛んだ身体をよいしょと動かし、アッシュは久しぶりに部屋の外に出た。暫く引きこもっていたせいか、どうも体が重たく感じる。


 開拓の現場は家の裏手にあり、アッシュがいる廊下の窓から開拓地の様子は見えない。面倒だが、確認の為には外に出るしかなかった。


 ぽてぽてと歩きながら、アッシュは裏口を目指した。使用人たちが使う扉だが、玄関を回るより現場に断然近いのだ。



『・・・うん?』



 裏口の扉を出て家の角を曲がれば、そこはもう開拓の現場。だが、そこで働いている筈の二人の姿が見えない。


 そう言えば、とアッシュは思い出す。

 廊下を歩いている時から何も音がしなかった。木を切る為の、斧や(なた)(のこぎり)の音がひとつも。



 それだけではない。開拓の進み具合は、アッシュの記憶にある光景と変わりなかった。いや、少し、そうほんの少し、広くなった気がしなくもない。



『嘘だろう? どうして進んでいないんだ・・・っ!? くそ、あいつら・・・っ』



 これは明らかに怠慢だ。


 バイツァーとリンダは、刑罰としてこの森に連れて来られたくせに、仕事を怠けるとは許し難い。自分たちの罪を全く反省していない証拠だ。



『躾をし直さないと』



 この開拓事業には、アッシュの後継者復帰がかかっているのだ。なのに、権利を失う原因となった二人が、反省の色もなくサボるとは。



 アッシュは、ぐっと拳を握りしめると踵を返し、裏口から再び家の中へと入った。



『許さない、許さないぞ。あいつらめ、罪人のくせに。今日からは、夜も休まず働かせてやる・・・っ』



 アッシュは足音荒く彼ら二人にあてがった隅の小部屋へと向かい、ノックもなく扉を開く―――と。



『・・・っ!』



 バイツァーとリンダが。



 アッシュの記憶にある姿よりも、ずっと肌艶がよくなり、ふくよかになった二人が。



 まだ昼間だというのに、足に繋いだ鎖をジャラジャラと鳴らしながら、激しく、そう、それはもう激しく、まぐわっていた。





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